コロナ禍でも日本の魅力をバーチャル旅で オンラインガイドツアー「JAPONISME(ジャポニスム)」

 コロナ禍の今、外国人の入国は規制されています。そんな中でも「日本の価値」を伝えるためオンラインガイドツアーを始めたM&Company代表の白石達史さん。実は、このビジネスの構想はコロナ以前からあったとか。インバウンドビジネスが逆風の中、果敢に前進する白石さんにお話を聞きました。

EC-zine(2021/03/10 )より

バーチャルツアーと古民家移築という、新しいインバウンドビジネス

――オンラインガイドツアー「JAPONISME(ジャポニスム)」が今、話題です。どんなツアーですか?

 単純に、オンラインで観光地の映像を見ながらガイドが解説していくツアーではありません。「JAPONISME(ジャポニスム)」では、ガイドはスタジオにいながらリアルタイムでお客様とお話したり、日本文化について解説したりといったことを行います。解説は随所随所で行っており、たとえば高山の場合、酒蔵の映像や神社の映像を流し、日本人の宗教観など外国人が興味を持つ内容も織り込んでいます。1時間程度のツアーですが、一度体験すると、高山の町はもちろん「日本文化」についても理解することができます。現在提供しているのは「高山ツアー」と「浮世絵ツアー」のふたつですが、順次増えていく予定です。基本的に、全編英語でのツアーになります。

――それ以外にも古民家の移築サービスを行っているとか。

 古民家の移築事業のサービス名は「M」と言います。名前の由来は、民家の頭文字の「M」です。海外のお客様も多いため、わかりやすくアルファベット1文字でいこうと考えました。国内外の富裕層向けに古民家を紹介し、移築まで行います。飛騨エリアにある古民家は、今では材料の入手が難しいものもあり、貴重なものばかりです。当然ながら、一般的な不動産屋では扱っていないものも多く、私が飛騨に住んでいるからこそ得られる情報もあります。本事業を通じ、貴重な古民家を次の世代に引き継いでいけたらと思っています。

――たとえば、飛騨の古民家を東京のどこかに移すこともできるということですか?

 海外にも持っていくことはできます。大工さんの派遣など、お金がかかることはさまざま出てきますけれども。現に、海外のお客様からお問い合わせをいただくことが増えています。このビジネスの目的は、先ほどお話しした古民家の存続のほか、大工さんの技術継承もあります。大工さんの技術には地域ごとに特色があるのですが、飛騨の大工さんはとくに技術力が高いんです。今では、高齢の大工さんが多くなってきていますから、若い大工さんにその技術を受け継いでほしいという願いがあります。年々、古民家は減少しています。移築し、事業として活用していくことで、古民家自体も残していければと考えています。

――やはり自分で住むよりも、カフェのようなお店にするなど、事業目的の方が多いのですか?

 飛騨の民家はとても大きく、450平方メートル以上のものもあります。一般的なコンビニエンスストアが100平方メートルほどと言うと、大きさがわかっていただけると思います。そのため、今の時代に住居目的にするのは難しい面もあり、どちらかというと商業施設にされる企業様が多いですね。

株式会社M&Company 代表 白石達史さん

綺麗な景色は見られても 質の高いガイドにこだわる理由

――それでは再び、JAPONISME(ジャポニズム)のお話を。このオンラインガイドツアーを立ち上げたのはいつ頃ですか?

 実際に立ち上げたのは2020年の8月頃です。構想としてはコロナ以前からあったため、スムーズにサービスをスタートできました。もともと、弊社でアテンドするお客様には海外のVIPの方が多かったのですが、日本の大ファンであっても、ご病気などの理由で日本を訪れることができない方もいらっしゃると知りました。対面のガイドツアーでは人数にも限界があり、質の高いガイドを増やしていくやりかたでしか、ビジネスを広げることができなかったというのもあります。

 このような背景から、時が来たら、オンラインガイドツアー事業を行いたいと思っていました。コロナ以前は、そもそもオンラインツアーが一般的ではなかったため、広く受け入れられるのに時間がかかるだろうと思っていました。ところが新型コロナウイルス感染症の流行により、オンラインツアーが一般的になり、追い風が吹きました。観光客がほとんどいなかったため、オンラインツアー用の映像撮影もスムーズに行うことができましたね。

――オンラインガイドツアーはライブツアーとは別物ですよね?

 私たちがご提供しているものは、ツアーのクオリティを上げるために撮影した映像に編集をかけてお見せしています。ライブツアーは、たとえばミュージシャンのライブのような、限定した目的には向いているかもしれません。しかし観光ツアーをライブにすると、たとえば移動時間が生じた場合はどうするか、カメラの手振れはどうするか、ガイドが移動することにより解説が散漫になりがちといった問題が発生します。もちろん、地点ごとにガイドやカメラを置き、移動するごとにスイッチするなど、予算やリソースが潤沢にあれば解決できることもあるでしょうけれども。

――ターゲットはどちらの国に設定していますか?

 ざっくり言うと欧米圏、アメリカ、イギリスは重要国だと考えています。高山市は、アメリカ コロラド州のデンバーと姉妹都市で、2020年に60周年記念の式典がありました。本来ならばオフラインイベントが予定されていたのですが、コロナ禍であっても開催できるよう、バーチャルでの高山ツアーになりました。最終的には、高山のバーチャルツアーには200人以上の方にご参加いただきました。

――ここまで高山に入れ込んでいるということは、白石さんは高山ご出身なんですか?

 いいえ、実家は千葉です。転勤属で故郷らしい場所はなく、大学卒業後は海外に住んでいました。3、4年の周期で、各地を転々としてきました。ヨーロッパに滞在後、2010年に飛騨に来ました。結果的に高山市で10年以上暮らすことになり、伝えたいことがいろいろと増えていきました。

 そして、ひとつの疑問が沸き上がってきたんです。こういった言いかたは語弊を産んでしまうかもしれませんが、年々増加する外国人観光客は、果たして本当に、日本の価値を感じて帰ってくれたのだろうかと。たとえば、言語問題は明らかなひとつの課題です。東京を離れるほど、外国語は通じにくくなります。すると、綺麗な景色は見られたかもしれませんが、その背景にあるストーリーまでは理解できません。本来は旅行会社さん同士がパートナーシップを結び、現地で適切な言語で案内できるガイドさんを育成するなどの取り組みが行われるべきだと思います。しかし、それが実現できているところは少なく、多くの地域で日本の価値を伝えきれないまま、外国人観光客が帰ってしまっているのではないかと思うのです。

 こういったことから、JAPONISME(ジャポニスム)では、質の高いガイドさんにこだわっています。国家試験の通訳案内士の資格はもちろんですが、どの方向から質問がきても全部答えられるようにしたい。表面的なことだけでやり過ごすのではなく、しっかりと魅力を伝えることができるガイド、ひとことで言うと「質の高いガイド」を維持していきたいと考えています。

根底は「日本の価値」を伝えること プラットフォームにはならない

――なるほど。今は「高山ツアー」「浮世絵ツアー」がありますが、この先ツアーは増えていきますか?

 実はすでに、さまざまな方面からお話をいただいています。たとえば、ある酒造さんと共同でオンラインガイドツアーを開発しています。行政と旅行会社さんも絡み、私たち含め3社で動いている大きなプロジェクトです。その旅行会社さんはヨーロッパに強いため、集客に関しても非常に力強いと思っています。

 とは言え、基本的には自社のウェブサイトにお客様を誘導する、直販のスタイルを考えています。しかしそれだけでは広がりが遅いため、旅行会社さんとタイアップしたり、特定の企業様からのご依頼により、海外のお客様への贈り物にバーチャルツアーを提供したりといったことも行っていきます。海外と取引のある企業様は、今は物理的な贈り物を控えなくてはならないため、日本のバーチャルツアーを贈るという選択肢もあるわけです。

――最後に今後の展開を教えてください。

 正直なところ、プラットフォームビジネスをやるつもりはありません。ここで言うプラットフォームビジネスとは、たとえば、誰でもツアー登録ができるようにして手数料をいただくといった類のものです。活性化はするでしょうが、クオリティを保つのは難しいでしょう。私たちは、自分たちが1本釣りしてきたガイドさんたちと一緒に質の高いサービスを提供することを目指しています。今、新作として京都のオンラインガイドツアーを制作していますから、楽しみにしていてください。私たちのビジネスは、移築とツーリズム。一見するとまったく関係なさそうですが、移築もバーチャルツアーも「日本の価値」を伝えることなんです。根底は似ているのではと思っています。