インバウンドビジネスは優秀な人材の採用まで含めた中長期視点で臨め 火付け役・やまとごころに聞く

 2007年創業の株式会社やまとごころ。まだ「インバウンド」という言葉が世の中に浸透していない時期に、インバウンドに関する情報発信やセミナー・イベントを多数行い、その火付け役となった。代表の村山慶輔氏の著作『インバウンドビジネス入門講座』(翔泳社)を読破し、インバウンド業界に参入してきた企業は多数ある。常に先頭を走り続けるやまとごころ・代表の村山氏に「未来のインバウンドの可能性」について聞いてみた。

EC-zine(2019/07/31)より

インバウンドはブームではなく“トレンド” 中長期視野で臨め

――2018年には訪日外国人数がついに3,000万人を突破し、盛り上がりを見せる一方で、インバウンドバブルは長く続かないという意見もあります。

私がさまざまなところで申し上げているのは、「インバウンドはバブルではなくて、トレンド(傾向)」ということです。皆さんもご存じのように、9月下旬からラグビーワールドカップが始まります。訪日客は約40万人、経済効果は4,000億円と言われています。44日間の大会ですが、日本全国12ヵ所の会場で試合が行われ、選手たちは日本全国を移動します。

しかも試合と試合の間は、1週間以上空いている場合もあります。となると、世界から日本に訪れたサポーターも同じような動きをします。自ずと試合と試合の間は観光に使うはずです。まさにここにチャンスがあります。今回は欧米豪の方が多く訪れますので、英語対応だけで十分カバーできます。しかもラグビー目的で来ていますから、日本に訪れるのは初めての方も多いでしょう。こんなチャンスはありません、自分たちの商品、地域をどんどんアピールするべきなんです。

そして、その約8ヵ月後には、東京オリンピック・パラリンピック、2021年5月には30歳以上のスポーツ愛好者であれば誰でも参加できるスポーツの祭典「ワールドマスターズゲームズ2021関西」が開催されます。2025年には大阪万博も決まりました。その後はカジノ・IRが続きます。このようにインバウンドに関してはチャンスが続くことは間違いありません。つまり、インバウンドは一時的なバブルでなく、今後も続くトレンド。国も地域も企業もインバウンドに関しては、中長期的に考えなければいけない時代に突入しているんです。

株式会社やまとごころ 代表 村山慶輔氏

――村山さんはさまざまな団体の理事、アドバイザーを務めていらっしゃいますが、なかでも日本ゴルフツーリズム協議会は興味深いです。

日本にはゴルフ場が2,200もあります。これは世界でも有数のゴルフ場の数です。あまり知られていませんが、2018年10月に、世界のゴルフツアーオペレーターをまとめる団体であるIAGTOが三重県でゴルフの世界的なイベントを行いました。日本からは60以上の企業が出展し、海外のゴルフ専門の旅行会社と商談会も行いました。また、その海外の旅行会社の方たちに三重県、静岡県、滋賀県のゴルフ場でプレーして、日本のゴルフ場の体験をしていただきました。実際、日本のゴルフ場を体験されると皆さん、「クオリティの高いコースだ」と驚いていました。

もちろんゴルフコース単品ではなく、日本の食、観光資源も一緒に売っていこうとするのが重要だと思っています。そういえば、オーストラリアにあるゴルフ専門の旅行会社の方と話していたら、ラグビーワールドカップの時にラグビー+ゴルフのプランを発売したら、即完売したらしいですよ。日本のゴルフ場はまだまだ外国人を受け入れしていないので、可能性は非常にあるかと思います。

――東北インアウトバウンド連合のアドバイザーも務めているとか。

この団体は、地元の非常に優秀な人たちが集まった団体です。東北6県の中小企業の社長さんがほとんどです。この団体は「作って、売って、受け入れる」を基本コンセプトにしており、旅行商品を作って外国人を受け入れたり、物産品を作り海外で売って東北に呼び込んだり、さまざまな事業を行っています。ここにいる人たちが、各地域のDMOのトップになり、積極的にインバウンドの活動を行っています。仕事柄、日本全国に足を運ぶのですが、東北インアウトバウンド連合ほど熱く、そして、力のある民間団体を私は知りません

とは言え、まだまだ東北地域に外国人が訪れているのは、日本全体の数%程度。課題は山積みです。最近の動きとしては、仙台空港は台湾、中国、韓国、いわて花巻空港は、台湾、上海の直行便も飛ぶようになりました。クルーズで訪れる外国人も増え、東北は今後伸びていく可能性はあります。

メインは観光地とアクティビティ 交通手段はあくまでサブ

――とくに地方では、主要都市までは行けるが、観光地まで交通の便が悪いなどの問題がよく議題で出されます。二次交通の問題はどのようにお考えですか?

ウィラーさんが販売している「ひがし北海道ネイチャーパス」のようなお得なパスも出てきていますし、魅力ある観光地があればどんどん改善していくのではないでしょうか。今や日本の自然を満喫するため、外国人がキャンピングカーを成田で借りて、東京には寄らずにそのままキャンプ場に向かう時代にもなっています。

よく考えてみてください。交通手段はあくまでもサブ要素なんです。目的(地)が強いことが大前提です。目的には観光スポットであったり、アクティビティがあったりして、そこが増えることで地域の魅力は増えていくんであって。「その魅力的な場所に行きたいから交通手段を充実させる」という流れが大事だと思っています。

交通手段を充実させれば、観光スポットに人が来るかというと、答えは「?」です。ロジックが逆になっています。体験型アクティビティを提供している企業さんと話すと、オプショナルツアーと言われることがありますけど、我々はオプションじゃないと(笑)。メインディッシュは我々ですよと。交通手段はメインディッシュにはならないんです。あくまでも目的に魅力を持たせることが重要だと思います。最悪、目的が魅力的であれば、どんな手段を使ってでも外国人は来ますから。

――現在、やまとごころさんは、「コンサルティング」「人材」「メディア」「教育・研修」などインバウンドに関するあらゆる分野でご活躍です。「インバウンド」という言葉が浸透する以前にやまとごころを設立されましたが、なぜインバウンドビジネスの企業を作ろうと思ったのですか?

私は高校まで神戸にいまして、大学からアメリカに行きました。大学を卒業後、半年間インドでインターンシップや旅をしていたので、約4年半、海外にいました。その時に3つの課題感を持ちました。

ひとつめは日本の魅力が全然、伝わっていない。1995年あたりで、Yahoo!などが登場し始めた頃でしたた。ネットを見ても、情報が古かったり、そもそも不足していたりと、日本に関する正確な情報になかなかたどり着けませんでした。

ふたつめは、自分自身が日本を知らないということ。海外に行くと日本についていろいろと聞かれるのですが、うまく答えられない。もっと日本を勉強しなければと反省しました。

3つめは、留学生が多い大学だったんですが、他の国の人は拙い英語でもガンガン自分たちの国のことを話して、自分の国に来てもらうとするんです。日本人の自分も「もっと日本を発信しなければいけない」と思いました。

この3つのことから「日本と海外をつなぐ仕事がしたい」というのと、自分は旅行が好きだったので、インバウンドという分野に注目しました。でも、実際に何をしたらよいのかわからなかったので、最初はコンサル会社に入社しました。そこでいろいろ勉強させていただき、2007年にいまの会社を創業することができました。気づけば12年経ちましたが、創業当時は「インバウンド」という言葉自体が浸透していなかったので、いろいろ苦労もありました。しかし今では、国の施策や地域活性、地方創生もインバウンドは必須の業界になりました。

まだまだ可能性は広がっているので、私たちも少しでもインバウンド業界に携わる方たちの力になれたらいいなと思っています。

インバウンドビジネスの未来のキーはやはり「人材」

――今後のインバウンド業界にとって重要なキーワードはなんでしょうか?

やはり人材です。弊社も「やまとごころキャリア」というインバウンド業界で働きたい日本人、外国人と企業様、団体様をマッチングさせるサービスを行っています。

最近おもしろいのは、東京の大学を卒業し、地方で働く学生も増えているということです。たとえば、岐阜県にある老舗旅館さんに某大学観光学部卒の方が入社しました。旅館さん側も「大卒を採用するのは初めて」と驚かれていました。「語学とITの力が伸ばせる」ということを打ち出したことがポイントになったようです。外国人比率が30%になる宿であり、語学は必須、ITはOTAの対応などで力を伸ばせる環境にあるということを前面に出しました。求人を出す際にも少し工夫を加えれば、優秀な人材が来てくれる可能性は大いにあるんじゃないでしょうか。

最初にも話しましたが、これからはインバウンドに関するイベントが目白押しです。インバウンドがブームではなく、トレンドとしたら、どこかのタイミングで外国人受け入れの経験値をスタッフに積ませる機会がないと駄目だと思います。

それは経営者側も外国人を雇うという経験値を積むことにもなっていきます。今までのビジネスのやりかた、評価システムでは外国人スタッフは辞めてしまうかもしれません。今まさに直面するインバウンドのゴールデンイヤーの時期にこそ新しいチャレンジをするべきじゃないでしょうか。ここでインバウンド対応の場数を踏めば、「あの時はああやったから、今度はこうしよう」など、次のステップに踏み込む自信にもなると思います。