星野リゾート、スノーピークとも提携 訪日外国人観光客向けウェブマガジン『MATCHA』が目指すもの

 今、もっとも旬な訪日外国人向け多言語ウェブメディア『MATCHA』。 何と「10言語」で日本を紹介する記事を作成。2013年にスタートした『MATCHA』は今や月間539万PV、238万UU、FBファン109万人と日本を紹介するメディアとしては国内最大級のウェブメディアに成長した。そんな『MATCHA』の代表取締役の青木社長に外国人への最適なPR法や企業ポリシーなどを聞いた。

EC-zine(2018/09/03)より

千葉県御宿町のターゲットはメキシコ人!?
訪日外国人観光客向けウェブマガジン『MATCHA』とは

――御社のメインサービスと特徴を教えてください。

青木(MATCHA) メインサービスとしては訪日外国人観光客向けウェブマガジン『MATCHA』に価値があると思っていただいた企業様からの広告出稿です。最近では、プランニングも弊社の強みとしております。海外に対してPRしたいという企業様に対して「こういう施策を打ちましょう」など提案致します。例えば成田空港様の事例で言うと、6時間だけ滞在する外国人のトランジットツアーのプロモーションを担当させていただいています。どういう観光地を巡るのがいいか、「ボランティアガイドを付けましょう」などさまざまな提案をします。その内容を『MATCHA』で紹介し、今や『MATCHA』経由の予約が8~10%程度あります。そもそも企業様や自治体様の中にはインバウンド戦略が曖昧なところも多いので、そのあたりのサポートをしています。インバウンドといっても世界は広いので、ターゲットをどの国にするか選定も重要ですし。ターゲットが決まれば、その国に対して何を、どう提供するかまでお手伝いします。

これが実現できるのも、弊社にはさまざまな外国籍スタッフがいるからなんです。台湾人、タイ人、ドイツ、ルーマニア、バングラディシュ他、多国籍、多文化であることがが弊社の強みとなっています。

株式会社MATCHA 代表取締役 青木優さん

――なぜこのビジネスを始めようと思ったのですか?

青木(MATCHA) 大学は明治大学の国際日本学研究科で「日本の文化を世界に発信できる人を」という理念に啓蒙されたんですかね(笑)。この時の講師陣も非常に魅力的な方々で、私が師匠だと思っている講師の方は世界にロリータ文化を広めた人で、すごく影響を受けました。

その方がおっしゃっていたのは「日本の文化は世界で知られているけれど、そこで日本人はビジネスができていない」でした。で、実際、私自身も日本は世界でどう受け入れられているかを見てみようと、1年間かけて世界20ケ国を巡り、その後日本も様々な場所を周りました。

自分の将来を見据えた時に、ちょうど東京オリンピックが決まった時で、訪日外国人は今後増えるだろうし、日本の魅力をもっと海外の人に伝えたいという思いから会社を設立しました。

――さきほどターゲット国を決めるというお話しがありましたが、今の日本企業や自治体は「欧米圏」「アジア圏」などの大枠で考えがちです。そのようなターゲット選択をどう思われますか?

青木(MATCHA) もちろん予算が潤沢にあればそれも可能だと思います。ただやはり予算には限りがあるので、しっかりとターゲット国を決めたほうが結果が出ると思います。いくつか例を挙げます。 以前、とある靴のメーカーがタイに向けてのプロモーションを担当しました。それまではプレスリリースをそのまま翻訳して新製品、新店舗の案内を出していたようなんですが、それではエンドユーザーに中々、届きません。

弊社が担当させていただいいて、「タイのこの層に商品アピールしましょう」とタイ人のプランナー、編集者、日本の編集者がプランニングをしました。各店舗にも相当細かい注文を出しました。それにあわせてFacebook広告もターゲットを絞り出稿しました。結果は、記事のひとつが公開から1ヵ月で20万PVを達成するなど、手前味噌ですが大成功でした。

これから手掛けたいプロジェクトでいえば、千葉県の御宿町の例です。実は御宿町の町長とメキシコでお会いしたんです。その時に「インバウンドやりたい」というお話しをされていたので、「御宿ならばメキシコをターゲットにすべきです」という話をしました。というのは、400年前、メキシコの船が座礁した際、御宿の人々が助けたことから、ずっと御宿とメキシコは国交があるんです。この件もあり、メキシコの人は日本に対して良いイメージを持っています。

日本に来るメキシコ人も6万人を超えて、ここ3年で2倍になっています。にもかかわらず、御宿のことは認識していても、御宿には行かないんです。それは、そこに行って何ができて、何が体験できて、何が食べられるなどの情報がないからなんです。強いストーリーはあるので、御宿がメキシコをターゲットにした場合、既存の物を提供するのはもちろん、メキシコ人向け商品を開発する選択もあるんです。

「世界をターゲット」にするとどうしてもボケてしまいますが、メキシコ人に訴求することを考えると、「日本食×メキシコ料理」など具体的な発想ができるわけです。そうすれば「御宿でしか食べられない物」なども提供でき、行く理由が出来上がってくるんです。

「やさしい日本語」で外国人の防災対策を
訪日需要をつくり、安全に楽しんでもらいたい

――2017年に星野リゾート社と資本業務提携、スノーピーク社と資本提携を締結しました。この理由としては、やはり『MATCHA』の記事のクオリティー、プランニング力などが2社にとって魅力だったのでしょうか。

青木(MATCHA) 本当にタイミングが良かっただけだと思いますよ。星野リゾート様とスノーピーク様と今のような関係性を築けたことで、結果的に知名度アップにもつながり、取材を受けていただきやすくなった気がします(笑)。

ひとつ言えることとしては、『MATCHA』を立ち上げた時に「熱量を大事にしましょう」と。もともと僕はブロガーだったので。自分がめちゃくちゃいいなというお店の店主さんと仲良くなり、紹介させていただくと人が訪れるという流れが、すごくいいなって思ったんです。

ただ『MATCHA』が成長するにつれて、日本人がいいなと思うものと、外国人がいいと思うものが違うとわかって、ライターファーストからユーザーファーストに切り替えていきました。そんな中でももちろん「熱量」は忘れていません。

――話は変わりますが『MATCHA』の言語の中には、「やさしい日本語」というカテゴリーがあります。これはどのようなコンテンツですか?

青木(MATCHA) 「やさしい日本語」は、半年ほど日本語を勉強した外国人がわかるレベルの日本語になっています。システムを使い、漢字にはルビをふっています。福岡県の柳川市様と電通様と連携して、やさしい日本語ツーリズムというプロジェクトを行ったのがはじまりです。このプロジェクトで、「やさしい日本語で旅ができる街を作りましょう。」という記事を作ったのをきっかけに、『MATCHA』でも採用することにしました。日本語を学んでいる外国人は日本語を使いたいんですよね。

この言語にふたつの意味があって「言語学習」と「防災の言語」なんです。防災はインバウンドの課題のひとつでもあります。日本に住んでいる外国人に向けて、防災の表記を英語、中国語など複数の言語で対応するのは限界があります。

そういう状況の解決策として「やさしい日本語」は非常に有効かと思っています。制作の際は、日本語教師の人に「やさしい日本語」に翻訳していただいています。今、この言葉を使って記事を制作しているのは、弊社とNHKと一部の自治体くらいなのでもっと広まることを願っています。

――今後の展望を教えてください。

青木(MATCHA) 端的に言うと「ミッション」「ビジョン」の実現です。ビジョンとしては「世界最大の訪日観光プラットフォームになる」ということ。これにはふたつの意味があります。ひとつは、今日本を訪れている外国人のインフラとなって日本の体験の最大化を行っていくということ。弊社の媒体を通して「日本に来て良かった。日本を好きになった。日本にまた来たい」と思われることを目指しています。

それともうひとつは僕達の媒体があることによって、ひとりでも多くの外国人が日本に行きたいと思ってもらえるようなモノを作ること。考えてみてください、台湾の人からすると「海外旅行=日本」にこだわる理由はないわけで、中国でも韓国でもタイでも、その土地ならではの魅力がある場所に行きたいんですよね。たくさんの国やエリアのなかで、旅先として日本が選ばれるためには日本を紹介する情報への接触回数や質が重要になってくる。MATCHAがあることで訪日客の新しい需要を作ること。つまりマーケットを作るのもひとつの目的だと思っています。

今お話ししたことを実現しようとすると、必然的に自分達のミッションでもある「日本の価値ある文化を時代とともに創っていく」につながっていきます。僕は、まだ知られていない日本の魅力がたくさんあると考えているのですが、それらはまず知ってもらわないとどんどん消え去っていきます。反対にたくさんの人に知ってもらえたら残っていくと思っています。価値ある文化を知ってもらうために、まずは『MATCHA』を今以上に成長させたいです。

やるべきことといえばもうひとつ。短い間に大阪の地震と西日本豪雨が立て続けに発生し、日本は災害大国なのだと改めて実感しているところです。災害はいつどこで発生するかわからないから、誰だって慌てるものですが、訪日旅行者にとって災害は本当におそろしいものだと思います。今何が起きているのか、この後どう動いたらいいのか。その両方の情報が届くべきところに届いていない現状があるので、そこを改善するために動いているところです。せっかく日本で過ごしていただくのだから、安心、安全に楽しんでいただきたいですよね。(了)