震災後に相次いだキャンセルでカヤックに出会う 外国人を魅了する“人力”で周る東京観光ツアーとは

 2006年、東京都内を自転車で周る外国人向けツアーは、おそらくまだ誰も行っていなかった。それを実現したのが、TOKYO GREAT TOURSの代表・肥塚由紀子さんだ。今やカヤック、ランニングツアーも加わり、外国人のリピーターが後を絶たない人気ツアーに。約15年、続けてこられたビジネス的戦略を訪ねると、「ビジネスなんてとんでもない。好きなことをやっているだけですよ」と笑顔で答えてくれた。

EC-zine(2020/03/09)より

いつもの旅行と異なる視点の提供で人気 “人力”で周る東京観光ツアー

TOKYO GREAT TOURS 代表・肥塚由紀子さん

――現在、肥塚さんが運営するTOKYO GREAT TOURSにはどのようなツアーがありますか?

肥塚 サイクリング、カヤック、ランニングと3つのツアーがありまして、サイクリングは9コース、カヤックは5コース、ランニングは2コースございます。サイクリングは「足」、カヤックは「手」、ランニングは「足」という感じで、 基本的には、エンジンは使わずに自分の力でアウトドアアクティビティを楽しめる都内観光ツアーというのがコンセプトです。

――具体的にどんなコースがあるんですか?

肥塚 たとえばサイクリングですと、お台場~水上バス~増上寺~東京タワー~お台場~皇居~など有名観光地を巡るツアー、両国などの相撲の町を通り浅草へ行く下町ツアー、そして今人気がある、都内の有名建築スポットを自転車で巡るツアーなどがあります。サイクリングツアーでは古地図を持って、お台場に行けば「昔、ここは海だったんですよ」、谷中の蛇道に行けば「ここには川が流れていました」のような説明をします。

カヤックは、日本橋の下をくぐるルートや花見カヤックツアー、都心をぐるりと3時間巡るツアーなどがございます。カヤックツアーはまだまだ少ないため、非常に貴重な体験になるようです。また、首都高速が交差し入り組む江戸橋ジャンクションの下から見る風景は、海外ではなかなか見ることができませんから、海外のお客さんにも非常に喜ばれています。

お客さんは、ツアーの対応言語が英語ということもあり、欧米豪からのゲストが多く、1年を通すとアメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダ、ドイツの順番ですが、冬は特にオーストラリアからのゲストが増えます。

――海外のお客さんはツアーに参加すると、どのような反応をされますか?

肥塚 全体的にそうなのですが、「このツアーに参加しなければ、見られない景色だった」という声をいただくことが多いです。サイクリング、カヤック、ランニングでは、裏道も訪れます。バスツアーや電車に乗っていたら見ることはできない景色が多いですから。

また、日本の日常的な風景を見ることができるのも楽しいようです。狭い土地に建っているビルがあると「見て見て」とお客さんに声をかけるんですよ。そうすると「おーすごい! 何であんな狭い土地に建てられるんだ」と驚いたりしています。

ほかにも、「日本の街にはゴミ箱がないのに、どうして道にゴミが落ちていないんだ?」といったような普通の疑問を投げかけられることも多いんです。単にホテルに泊まって、自分で観光地を巡るだけでは、こういった疑問を投げかけられる日本人とは知り合いにならないですから。

単にツアーを提供するだけではなく、外国人のお客さんとコミュニケーションすることが私も楽しいですし、喜んでいただけています。ツアーで6時間も一緒にいると、すごく仲良くなるし、友達にもなります。14年間、このツアーを行うことで、外国人のお友達がたくさんできました。お客さんが帰国後に、その国に遊びに行ったり、私の自宅に招待したりもしました。ツアーその日に意気投合して、自宅に招待したこともあります(笑)。

東日本大震災後キャンセルが続々 あいた時間でカヤックを始める

――何か楽しそうなビジネスですね。

肥塚 はい、楽しいです。でも、反省する点や困ったことはいっぱいありますよ。たとえば、サイクリングツアーでは、ツアー中にお客さまを一瞬見失ってしまうということが、何度か起こりました。浅草などの混んでいるエリアで、ツアーとしては角を曲がったのに、あるお客さんがそれがわからず、まっすぐ進んでしまったといったことです。前後に、目立つ色のユニフォームを着たガイドがついてはいるのですが、そういうことも起きるんですね。もちろん、弊社スタッフが探して見つけますけれど、海外で一瞬でも迷子になったゲストはさぞ不安だろうと。このようなことは二度と起こさないよう、反省して改善しなければと思っています。  

2011年の東日本大震災の後は、キャンセルが相次ぎ、「このまま続けていけるかな」と不安に思いました。でも不安に思ってもしょうがないし、キャンセルで時間ができたので、気になっていたカヤックをやって暇をつぶしていました(笑)。そのカヤックが、気づいたら弊社のツアーのひとつになっていました。暇つぶしにカヤックをしながらガイドができるように勉強もしていたんですけれど。サイクリングなど別のツアーに参加したお客さんなど限定してカヤックツアーを始め、しばらくしたら宣伝をしてみようかという感じで本格的にツアーにしました。

――そもそも、外国人向けツアービジネスを始めようと思ったきっかけは何ですか?

肥塚 元々は出身地の神戸で銀行員をしておりました。その後銀行を辞め、大学院のMBAコースに通い始め、そこで出会った方たちの中にチェーンホテルのオーナーさんがいたんです。その方にお誘いを受けて、就職することになりました。それが2001年くらいです。

そこではホテルの予約サイトの運営を行っていまして、日本人がメインターゲットだったんですけれど、今後は外国人集客も必要だろうと。それで外国人も集客するようにホテル支配人にお願いしに行ったところ、大反対にあい、道半ばで断念しました。

2005年で退社したタイミングで、今のビジネスパートナーである人に、「ヨーロッパでは自転車ツアーが盛んで、京都では日本人向けに自転車ツアーを始めた人がいるみたいよ」という情報を聞いたんです。「自転車ツアー? おもしろそう」と思いました(笑)。その京都の方が日本人向けに自転車ツアーをやっているなら、私は外国人向けにやってみようと。自転車ツアーで都内を案内し、外国人のお客さんが喜んでくれたら、それは楽しいだろうなと思いました。たまたま私も、マウンテンバイクに乗りながら都内をぐるぐる回っては、「こんなにおもしろいところが東京にはあるんだ」と思っていたんですよね。

2006年に本見ながらホームページを作り、自転車を買い、パンク修理の勉強してと、かなり地味なスタートを切りました(笑)。まずはサイクリングコースひとつで始めました。初めて予約が入った時のことは、今でも忘れません。たしかツアー実施日は、2006年11月2日でした。

オープンマインドなゲストたちと触れ合う時間が何よりも楽しい

――2006年にホテルに営業に行った際にはいろいろ言われたとか。

肥塚 「東京でサイクリングなんて危ない!」「事故に遭ったらどうするの?」「保険は?」といったような、ネガティブなことばかり言われました。もちろん、ホテルの方もゲストのことを思ってのことだとは思うのですが……。今となってはサイクリングは、どこでも行われるツアーになったのでよかったですけれど。

――それでは最後に今後の展開をお聞かせください。

肥塚 以前お受けした別のインタビューでは、『「自転車」「カヤック」「ランニング」の次に、エンジンを使わずできるものといったら「馬」ですかね。じゃあ次は「東京ホースツアー」』といったことを冗談で言ったのですが、さすがにこれは難しそうです(笑)。

そもそも、ニーズがある/ないではなく、最初から自分たちのやりたいことをやってきているだけなんです。ランニングツアーも仲間にランニング好きな人がいたから「じゃあ、ランニングツアー始める?」という感じで始めましたし。とにかく何か好きなことが見つかったら、それをツアーにしてみようかなとゆるーく考えています。

私は、ツアーに参加していただいてるお客さんとのコミュニケーションが本当に楽しいです。お客さんも、バスや人力車に乗って観光するタイプのツアーではなく、自ら漕がないと前に進まないツアーに参加する人たちですから、自発的でオープンマインドな方が多いです。そういう方たちと触れ合うことが気持ち良いというか……。これからもこのツアーを長く続けていきたいと思っています(了)。