日本人だけではうまらない 平日対策に始めたインバウンドで大成功!「まちのキャンピングカー屋さん」

 インバウンド集客は顧客データ分析が主流だが、それとは真逆、元営業マンの現場主義の精神でインバウンド集客を成功させている「まちのキャンピングカー屋さん」代表・町野泰弘さん。その秘訣は「人のためになる仕事がしたい」という思いから。外国人スタッフもいない、日本語しか話せない町野さんはどのようにして成功したのか!?

EC-zine(2019/11/11)より

英語も話せないのにインバウンド集客に成功した「まちのキャンピングカー屋さん」

――町野さんは、キャンピングカーを日本人だけでなく外国人にも貸し出ししているそうですね。

町野 当社「まちのキャンピングカー屋さん」は香港、台湾のお客様をメインターゲットにし、キャンピングカーのレンタルを行っています。

「まちのキャンピングカー屋さん」代表・町野泰弘さん

――ということは、町野さん自身は中国語(繁体字)ができるのですか? それとも中国語ができるスタッフがいらっしゃるんですか?

町野 中国語どころか英語すらできません(笑)。海外のお客様とのやりとりは、基本的にメールで行っているのですが、ほとんど問題ありません。保険・補償など重要なものは、すべて繁体字、英語で書面にしています。車の使いかたについては、お客様に空港で貸し出す際に実演してみせると納得していただけます。

以前、タブレットの向こう側に翻訳者がいるサービスも使ったことがありますが、なかなかうまくいきませんでした。Google翻訳のボイス機能も同様です。会話にタイムラグが生まれるので“熱量”が伝わらないんです。それ以来、そういった翻訳機能を使わなくなりましたが、それでも困ったことはほとんどありません。

今では、お客様が何語を使われても大丈夫だろうと思っています(笑)。ただ、急な用事で海外のお客様に電話をかけなければならない場合は非常にたいへんです。その際は「詳しい話はFacebookのメッセンジャーで送ります」と伝言する程度にしています。

――香港、台湾のお客様をターゲットにした理由は?

町野 『インバウンドビジネス入門講座』(村山慶輔, やまとごころ編集部/翔泳社)を読んだところ、訪日観光客の8割がアジア圏の方々で、その中でも台湾、香港の方々が親日であると書いてありました。数としてボリュームがあり親日であればリピートしてくださるだろうと考えました。

――香港、台湾のお客様はキャンピングカーでどこに行かれることが多いですか?

町野 9割が富士山です。私自身、世界遺産である富士山を選んでくださるのは非常にうれしいので、「ぜひ見に行ってください!」と送り出します。最近では、桜前線を追いかけ東北を巡ったり、伊勢まで行かれる方もいらしてびっくりしています。

海外の方へのキャンピングカーのレンタルを始めて思ったのが、皆さん、車の運転が上手だということ。自国で消防車を運転しているという方が、自信を持ってレンタルしてくださったことはよく覚えています。

また、日本のナビゲーションシステムのクオリティに驚く方が多いです。今、当社は多言語対応のナビゲーションを搭載しているのですが、おかげで迷うことなく目的地に到着されるようです。

――公式の外国語ウェブサイトもこだわりを持って制作したとか。

町野 はい、多言語ウェブサイト制作会社さんと話し合い、進めていきました。まずはウェブサイトのアドレスです。通常、多言語にする場合、日本語のアドレスの後に英語サイトでしたら「/en」、繁体字でしたら「zh」「chi」などにします。当社では、日本語サイトアドレス(machino-camp.co.jp)とはまったく違うcamper-japan.comにしました。キャンピングカーのことを英語では「camper」と呼びます。検索エンジン的な効果を狙ってのことです。

TOPページでは、「当社で借りるとこんなメリットがある」ということを明確に打ち出しました。成田空港、羽田空港から富士山、軽井沢など有名観光地への距離感を示したり、イメージしやすいよう動画も掲載しています。

また、質問が増えないようにFAQページを作り対応しています。たとえば、冬場の富士山近辺キャンプ場など気温についての質問が増えたら、随時追加していく。「道の駅」に宿泊するお客様もいますので、「道の駅」を利用する際の注意事項を掲載したページも新規に制作しています。挙げだしたらきりがありませんが、常に多言語公式ウェブサイトを進化させていきたいと思っています。

日本人だけではうまらない平日対策としてインバウンド集客

――そもそもキャンピングカーレンタルを始めようと思ったきっかけを教えてください。

町野 2017年4月に起業する以前は、商社で23年間働いていました。毎月ノルマに追われ、売上を考えるばかりで、「お金」に力点を置きすぎていたんです。数字ばかり追い詰めると、どこかゲーム感覚になってきて、何のために仕事をしているのかわからなくなってきました。

そんな矢先、2011年に東日本大震災が起きたんです。私は福島の水族館にポンプを納品していたため、すぐに福島に行きました。復旧作業の最中に、「こういうことが人の役に立つ仕事なんじゃないか」って思ったんです。震災復興のために水を運んだり、宿泊所としてキャンピングカーが活躍していました。これがキャンピングカーを知ったきっかけでした。

もうひとつの理由は、5年前に犬を飼ったことです。妻が旅行が好きで、犬と一緒に旅行に行きたいなといろいろ調べていたら、キャンピングカーで愛犬と一緒に旅行するという情報を見つけ、これは需要があるんじゃないかということで起業しようと決めました。

――起業後はすぐに軌道に乗りましたか?

町野 4月に起業したのは、ゴールデンウィークやその後の夏休みも利用していただくことで、一気に認知を高めようという狙いでした。結果は、ゴールデンウィークは予約が入ったのですが、その後はピタッと予約が止まって、静まり返った湖のようでした(笑)。その後も、夏休み期間は予約が入ったものの、9月、10月、11月はピタッと予約が止まる……という具合で、これでは潰れてしまうと思い、何か策を考えないと模索しました。

そんなとき、ある方から「インバウンド」というキーワードをいただき、平日を埋めるにはこれしかないと、迷わず「インバウンド対策」を始めました。まったく知らない業界だったため、有識者の方を頼ることが近道だろうと思い、『インバウンド入門講座』の著者・村山慶輔さんが代表を務めるやまとごころさんにコンサルタントをお願いしました。

ほどなくして台湾人向けのサイト「樂吃購!日本」に取材形式の広告を掲載することになりました。結果、サイト内でも2位のアクセス数を獲得し、編集部も驚いていました。1位大手電機家電店さん、2位が当社、3位が大手交通会社さんですから(笑)。これをきっかけに大手交通会社さんのインバウンド部門から連絡をいただき、台湾の旅行博の出店のお誘いを受けました。もちろん出店費用はかかるのですが。

台湾の旅行博で行った大赤字の「ジャンケン大会」とは

――それはすごい! 徐々にいろんな結果が出てきているようですね。

町野 実はこれがたいへんなことになるんですよ。結果から申し上げますと、数百万円の赤字を出しまして(笑)、今となっては痛い勉強代でした。旅行博には300万円分のホログラム付きのチケットを作って行ったのですが、4日期間があったのですが、初日が終わった段階で売上0円、2日以降もまったく売れず……、最終日、もうとにかく人が集まることをしなければだめだと思い「ジャンケン大会」を開いたんですよ。知り合いが連れてきた台湾の方が一生懸命にやってる日本人を台湾人は好きなんだという話を聞いていたので。もう馬鹿になって帰ろうと。

ただし、「ジャンケン大会」に参加するのは当社のFacebookに「いいね!」を押してくれた方限定にしましたが、それでも背水の陣と言いますか、行き当たりばったり作戦でした。結果的に、この「ジャンケン大会」の様子を見ていた方が、ジャンケンがどうのではなく、「僕は買うよ」と言ってくださいました。その場の採算を考えたら大赤字でしたけれど、1年経ってみて、ここでの宣伝効果もあり、採算が取れました。

――今後の目標をお聞かせください。

町野 キャンピングカーの台数をもっと増やしたいです。今はまだ3台しかありませんが、台数を増やしてたくさんの海外のお客様に利用していただき、素晴らしい日本を見ていただきたい。

お客様にはよく、「宿のない場所に行ってみてください」と言います。日本には、お客様の想像を超える美しい自然がまだまだあります。キャンピンカーを利用して日本の自然を堪能していただけたらうれしいです。もちろん日本人のお客様にもご利用いただきたいです。また、欧米のお客様に多い長期レンタルも増やしていきたいですね。

当社は事務所が千葉にあるのですが、台風19号で被害に遭われた方がスマホの充電等で困っているということを知り、南房総まで行きボランティア活動も行ってきました。キャンピングカーは災害時に電気発電や宿泊所という利用もできることを広げる啓蒙もしていけたらと思っています。