「PCサイトを持っていると恥ずかしい」爆速でデジタル化する中国向けインバウンドビジネスの勘所

 2017年に訪日した中国人の数は実に約730万人。日本に訪れている訪日客数の約3分の1を占める。そんな中国人をターゲットにした広告展開を得意とする、ENJOY JAPAN取締役の目代有史郎氏に越境ECから中国人向けインバウンド対策について聞いてみた。

EC-zine(2018/08/03)より

中国への越境ECで、次にブレイクしそうなのは「ペットグッズ」

――日本のメーカーさんも中国人、台湾人をターゲットにした越境ECや訪日客に向けてさまざまなサービスを展開しています。中国・台湾向けに商品を販売する場合、おさえておきたいポイントはありますか? 

目代 まず意外と初歩的なことなんですが、同じ中国語を話すからと言って、中国市場と台湾市場、香港市場をごっちゃに考えている企業様がまだまだ多いような気がします。これはまったく違う市場ですので、分けて考えてください。

越境ECに慣れていない初心者の企業様は、台湾から狙っていくのがいいんじゃないでしょうか。感覚的には日本のマーケットに近いですし、比較的広告費用も安いので。それに比べて中国市場は、日本よりも広告費が高いですから。

中国では、Google、Facebookは使えません。検索エンジンでしたら「百度」です。Amazonも弱く、「淘宝(タオバオ)」や「京東(ジンドン)」「小紅書(RED)」などのモールを使っています。弊社は代表が中国人で、広告宣伝だけではなく、中国からの輸出入も経験しています。そのあたりのノウハウを持ちながらPR展開もできるのが強みです。

越境ECはブームになっていますが、やはりリピートされる商品でないと売上も上がってこないのではないでしょうか。一番売りやすい商品は、やはり化粧品ですかね。食品はいつ通関で止まるかわからないですし、止まり続けると腐ってしまいますから。

人から聞いた話できちんと調査はしていないのですが、次にブレイクしそうなのは、ペットグッズです。ペットフードはもちろんですが、犬用の洋服、首輪など。中国も少子高齢化になって、都市部ではペットを飼う方が増えています。中国の最大手のペット用品企業の売上が何兆円という数字で、日本のペット用品市場規模以上あるみたいです。皆さんもご存じのように、中国の人口は日本の10倍以上です。ある商品に火がつくと、たちまち生産が追い付かなくなります。10倍の人口は想像以上に巨大です。

もうひとつは、健康関連です。弊社のオフィス内には中国人向け旅行会社が入っており、中国の保険会社と提携しています。その提携先の保険会社が、中国のVIP顧客向けに日本への健診ツアーのようなものを提供しています。いわゆる、医療ツーリズムです。日本を旅行をしながら健診も受けるという感じです。健診ツアーで来た中国人のVIPが日本の高級ホテルに泊まって、ベッドや枕の寝心地がよかったら、それもすべて買っていってしまうというエピソードもありました(笑)。

株式会社ENJOY JAPAN 取締役 目代有史郎氏

――ENJOY JAPAN様は2010年創業ですが、翌年には東日本大震災がありました。さすがに中国人向け広告業は厳しくなかったですか?

目代 創業当初、中国現地の旅行会社に、無料の日本旅行ガイドを配るサービスを行っていました。創業して1年目の会社にもかかわらず、中国人をターゲットにした大手の日本企業様が広告を出してくださいました。その時はまだそういった媒体がなかったので、日本のメディアにも多数紹介されたんですね。

翌年の震災時にも、大手企業様が「未来への投資だから」と出稿を続けてくださいました。それは今でも感謝しております。ただし、金額としては減少しましたので、「今何が必要か」ということを考えて、中国からガイガーカウンターを仕入れて販売するといったことも行っていました。

2012年には反日運動があり、中国の旅行会社から「さすがに日本の観光案内は置けない」という連絡が来て、広告をストップせざるをえない状況になったこともありました。まさに不遇の時代でしたね。

それでもここまで続けてこられたのは、中国と日本がもっと理解し合い、もっと行き来してほしいという思いを持ち続けていたからです。何とか不遇の時代も乗り越え、今では大手メーカー様や流通小売、鉄道会社、行政からのお仕事もさせていただくようになりました。

インフルエンサーが売る、PCサイトは恥ずかしい 中国の常識

――上海にも拠点をお持ちですが、ENJOY JAPAN様のソリューション事例についてもお聞かせください。

目代 弊社は基本的に代理店なので、お客様が集まる手法ならば何でもやります。基本的には、中国企業のメディアに出稿することが多いですね。実は8月末に、中国でも有名な美容テレビ番組「我是大美人」と日本のドラッグストア様、日本のメーカー様数社が共同で、3時間の特番番組をやるんですよ。これのまとめ役を担当させていただきました。

タオバオ内のウェブ動画で配信するんですが、その場で化粧品をどんどん売っていきます。売上目標は3時間で8,500万円です。特徴的なのは、この番組はあくまでも盛り上げ役で、同時放送で有名インフルエンサー達が体験しながら販売していくとうこおと。番組中に、スタジオからインフルエンサーに「○○さん?」って声をかけたりします。結局、販売するのはインフルエンサーなんです。インフルエンサーの中には、こういった取り組みで、1人で3,000万円も売り上げた人がいます。この販売スタイルは、去年から中国では流行り始めているんですよ。

今回、8月末にこの番組をやるのも理由があります。9月、10月に入ってしまうと、「シングルデー(独身の日)」を祝った中国最大のECイベント「W11(ダブルイレブン)」が11月11日行われるので、皆、そっちの準備で忙しくなってしまうんですね。だから8月末がギリギリのラインということでこの日になりました。

ほかの事例としては、小田原市の社団法人からのご相談で、「どうしても箱根の通過駅になってしまい、小田原の町の観光をしてくれない」というものがありました。そこで、お笑い系のユーチューバーと中国人の話せる日本人に、ふたりで小田原を旅してもらって、その様子を動画で展開しました。

日本のファミリーマート様の店舗で、コーヒーやフラッペの買いかたがわからない外国人が多いので、わかりやすく案内や動画を作って展開する、という取り組みもありました。現地のファミリーマートと大きく違うので、その動画が台湾のメディアに取り上げられたりしました。

総じて、結果を出すならばインフルエンサーを使ったPRがいいかと思います。日本の観光地を広めるには、小田原の事例のような動画活用のほかに、「小紅書(RED)」という中国版インスタグラムを使い、観光地を旅してもらって、写真などをアップするのもいいかと思います。挙げだすときりがありませんが当社では、データ分析などではなく、実際に「売る」「来る」ということにこだわった展開をしています。

―――中国の企業や人達と取引を始めると、文化の違いで困る日本企業もいるようです。そのあたりはどのように対応されていますか?

目代 中国の場合は、ビジネスは進行しつつ、問題が起きたらその都度解決していくんです。日本とはまったく逆ですよね? 日本の場合は、先に問題点を洗い出し、相手企業に山ほど質問するなど事前に多くの時間を割いてから、ようやくプロジェクトが始まります。まったく逆ですから、お互いあわないのは当たり前なんですよ。

対応としては、相手のビジネスの進めかたに理解を示しつつも、わからないことやおかしいことにはしっかり「NO」と言うことが大切です。もちろん、中国語が話せるスタッフがいたほうがいいとは思いますが、中国には日本語が話せる優秀な方も多いので、言葉の問題はそれほど心配ないかと思います。

ひとつ気をつけていただきたいのが、中国のデジタル分野の進化がものすごく速いということです。今や、「PCサイトはいらない」という企業さえあります。IT企業では、「PCサイトがあると恥ずかしい」という風潮さえあるんです。スマホサイトか、「WeChat(微信)」アプリ内に企業概要を作っていたりします。正直、中国現地の代理店も追いつくのが大変だと言っているくらいです。

文化の輸出入が人をつなぐはず

――ENJOY JAPAN様の今後の展望は?

目代 今、中国と日本の相互コミュニケーションを進めていまして、日本の文化を中国へ、日本の文化を中国へというお手伝いもしています。たとえば、ENJOY JAPAN中国法人が、藤原竜也さん主演の舞台『ムサシ』(2018年3月29日~2018年4月1日)の上海公演のサポートをさせていただきました。

この取り組みを行うことで、もっと中国と日本の人たちが、お互いの国の理解を深めることができると思うんです。今年は日中友好40周年で、中国が積極的に日本の文化を輸入しています。中国側から蜷川幸雄さんがまだご存命の頃から「ぜひ蜷川さんの舞台をやってほしい」という要望があり、蜷川さん自身も「中国でやりたい」という思いもあり、この企画は進められていたみたいです。残念ながら2016年に蜷川さんは亡くなってしまいましたが、その想いは消えることなく、2009年に蜷川幸雄演出で上演された『ムサシ』が、今年、無事に中国で上演されました。

今年の秋には、日本で中国の文化遺産の展覧会を行います。今度は逆に「中国の文化」を日本の人にも知ってもらえる機会になるかと思います。小売から文化まで、さまざまな分野を担当していますが、今後も中国と日本の架け橋のような役目になっていきたいと思っています。