サービスや製品の必要性を世に問い、ネット上で資金を募るクラウドファンディングが浸透して数年。その世界版、すなわち「越境クラウドファンディング」サービスが2020年10月にリリース。訪日・在日外国人向けメディア「MATCHA」運営会社による「Japan Tomorrow」である。サービスを立ち上げた齋藤慎之介さんにJapan Tomorrowでの事例や成功法則を聞いてみた。
お金やモノは旅できる 越境クラファン「Japan Tomorrow」とは
——「Japan Tomorrow」とはどのようなサービスですか?
齋藤 ひとことで言うと、4言語に対応している越境クラウドファンディング(以降クラファン)です。クラファンと言うと「ウチ、お金に困ってないし」「お金に困っているように見られるのが嫌だ」とおっしゃる事業者の方もいらっしゃいます。誤解しないでいただきたいのですが、Japan Tomorrowの一番の特徴は、外国人の方と「接点」を持てること。プロジェクトを通して、日本を旅するきっかけ作りができればと思っています。新商品や旅行商品の海外テストマーケティングなどに活用いただくことも可能です。
——Japan Tomorrowのリリースはいつですか?
齋藤 リリースは2020年の10月です。僕達が運営する訪日外国人観光客向けWebマガジン「MATCHA」の読者数が、コロナの影響で7割くらいどーんと落ちまして。日本にいらっしゃる方が情報を集めるために利用しているウェブサイトなので当然ではありますが。情報を更新しても反応が薄い日々が続き、何かやらなきゃと考えていた時期に、クラファンシステムを提供している企業さんから「越境クラファンやりませんか?」とお声がけいただきました。
その時、すごくピンときてこう思ったんです。「今は外国人が日本へ旅行することはできないけど、この越境クラファンを使ってもらうことで、お金やモノは旅できる」と。加えて、日本に来るきっかけを作ることもできる。このコンセプトは「MATCHA」と同じです。ならばやろうということで、一気にリリースまで突き進みました。単に海外にモノを売るというような発想ではやらなかったかもしれません。
——これまでに掲載されたプロジェクトをいくつか教えていただけますか?
齋藤 「聖地・熊野に向かう巡礼の道、世界遺産「熊野古道」の巡礼風景を守りたい!」は、多くのお金が集まりました。30万円の「熊野古道1泊2日のミステリーツアー」というリワードを購入してくださったアメリカ人の方もいらっしゃいました。実施目的は「道の保全」ターゲットは巡礼や自然文化保護に興味がある方と明確でした。
たとえば、古い道案内看板を寄付金で「このようにきれいにします」とビジュアルで見せるなど、掲載の仕方も工夫していました。購入してくださった海外のお客様は、アメリカ、オーストラリア、フランスなどの欧米の方々が多かったです。熊野古道は、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの道と姉妹巡礼道でもあり、海外の方にも認知度が高いこともあるでしょう。
僕自身も購入したのですが、「Friends of Kumano Kodoメンバーズカード」には、シリアルナンバーと自分の名前が入っていてとても立派でした。「熊野古道に来る際、このカードを持ってきてくださったら記念品をプレゼントします」という意味合いの、感謝のメッセージも同封されていました。このカードとメッセージが手元に届いたら「コロナが終息したら熊野古道に行きたい」と思うはずです。
「コロナ禍と豪雨災害を乗り越え、旅館山城屋「大女将秘伝の味噌」を世界へ届けたい!」という事例もあります。山城屋さんは元々8割が外国人客でしたが、コロナの影響で減ってしまい、なんとかしなきゃと夕食に出していた味噌を商品化し、海外に販売することにしました。どうやらゲストから「茄子の味噌田楽にのっている味噌は販売していないんですか?」と聞かれることが多かったようなんです。正直なところ、「海外の方が味噌買ってくれるかな」と不安はあったようですが、プロジェクトはあれよあれよと売れ、日本人も含めて128人の方がサポートしてくださいました。うち外国人は7割くらい、台湾、シンガポール、香港、アメリカ、イギリス、オーストラリア等の方々です。
成功の要因は、山城屋さん自身の広報施策が素晴らしかったこと。テレビ、新聞などのメディアで取り上げられたり、Facebookの更新もマメで、「今日、どこどこの国の方に味噌が売れました」など住んでいる国の写真等も載せて、具体的なアピールをしていました。
「神と仏の融合!!大分県国東半島に1300年伝わる奇祭「修正鬼会」総集編特別ライブ配信!!この伝統行事を未来へ繋げる全てはここから始まる・・・」もJapan Tomorrowで支援させていただきました。「100年使える湯のみで、ワークスペースに煎茶を。」は、クラファンプロジェクト終了後も、Japan Tomorrowで販売させていただいています。
プロジェクト終了後も越境EC等で支援へ 一発屋で終わらせない
——成功するプロジェクトに共通しているのは何ですか?
齋藤 社内でよく話している方程式は「認知度×好き度(ファン数)×リワードの特別感=支払総額」です。まだコアなファンが少ない場合は、リワードに特別感を持たせて尖らせたり、さまざまな工夫が必要です。「MATCHAさんがなんとかしてくれるんでしょ、あとはよろしく」と丸投げされる場合は、なかなか成功するのは難しいかもしれません。やはりプロジェクト発起人が主体性を持って、自ら試行錯誤しアピールすることが重要です。もちろん、MATCHAとしても全面的にサポートさせていただくことは大前提ですが。実は今、掲載をお断りしている事業者さんも出てきています。単にモノや商品を売りたいだけだったり、実施目的が弱い場合です。あくまでもJapan Tomorrowは、海外の人達と接点を持つことを重要視していて、そこに本気で取り組んでいただける方々と一緒にやりたいと思っていますから。
——齋藤さんのパーソナルな部分もお聞かせください。MATCHAさんに入社したきっけは?
齋藤 2012年に、代表の青木(参考記事)と出会ったことがきっかけです。僕が大学1年の時に、確か青木は大学5年生でした(笑)。世界一周に行っていたことで青木のブログを読んでいて、そこから青木が朝活をやっていることを知り、一度参加してみようと思ったのがリアルでの出会いでした。そこで「MATCHAを立ち上げるんだけど、手伝わない?」と誘われました。それからは、毎日のようにFacebookに英語で投稿を上げる作業をしてました。気づけば、1万いいね!くらいまでは無課金で獲得できるようになったのがうれしかったですね。
その間にニューヨークに留学もしていました。世界から日本がどう見られているのかを知りたかったからです。アメリカに行って気づかされたのは、自分が日本のことを何も知らないことでした。神社とお寺の違いは? なぜお辞儀するの?といった質問をされても正確には答えられませんでした。1年間の留学の後日本に戻り、一度は就職しておこうと考え、広告代理店に就職しました。そこでは大きな仕事もあり、たくさんのことを学ばせてもらったんですが、もっと自分自身でプロジェクトを動かしている実感がほしくて、MATCHAに戻って働くことに決めました。
——Japan Tomorrowの今後の展開は?
齋藤 今、考えていることはふたつあります。ひとつめは、クラファンのプロジェクトだけでは一発屋で終わってしまいがちなので、事業者さんを継続的なお手伝いができるようにしていきたいです。たとえば、Japan Tomorrowで成功した商品を海外(台湾、シンガポール、アメリカなど)での卸先を見つけて、取引契約までお手伝いするとか。現地展開まで行うことができたら事業者さんにも喜んでいただけるのではと思っています。現状でもクラファンのプロジェクト終了後は、越境ECとしても活用いただけます。
もうひとつは、大型のプロジェクトをやっていきたいということ。大きなイベントや、何周年記念などのプロジェクトを行う事業者さんと組み、日本人だけじゃなく海外にもアピールできたらと考えています。今、いくつかプロジェクトは動き始めています。まだ内緒なんですけどね(笑)。