キーワードは“Inclusive” インバウンドの老舗・エクスポート・ジャパン高岡さんに聞く

 約18年前、インバウンドという言葉が一般的に知られていない頃、エクスポートジャパン株式会社は、ITを駆使し、世界へ“日本の情報を発信”するビジネスをスタートさせた。現在、月間ユニークユーザー180万人、世界200か国以上からアクセスされているjapan-guide.comの総代理店でもあり、ほかにも政府機関、公共交通機関、企業などの多言語サイト制作、海外向けウェブプロモーションなどのサービスを業界を牽引する企業として展開している高岡謙二代表取締役に、20年近くに及ぶビジネスを振り返りつつも、未来のビジョンを語ってもらった。

EC-zine(2018/05/21)より

インバウンドビジネス20年を振り返る エクスポート・ジャパン 高岡さんに聞く

エクスポート・ジャパン株式会社 代表取締役/CEO 高岡謙二さん

――今や外国人客をターゲットにインバウンド業界に新規参入してくる企業が続々 とあります。中でもITを使ってのインバウンドサービスを提供する企業も非常に多い。こんな現状をインバウンドの黎明期を知る高岡社長はどうみていますか。

正直、これ以上にライバルが増えてほしくないなというのが本音です(笑)。ただ、今は非常に可能性のある状況です。その理由は、サービスを提供する企業同士が連携することによって、顧客満足度を上げることができるからです。

具体的に説明しますと、以前は海外に物を売りたいというクライアントがいても、外国語ウェブサイトは持ってない、海外発行のクレジットカードを決済できるプラットフォームもない、まして海外向けに安価で広告できる手段(アドワーズもFacebookも)ありませんでした。じゃあどうするかというと、全部、自分達で開発、開拓しなければいけなかったんです。それをすべてクリアし、ようやくクライアントは満足してくれるわけです。ただそれでは膨大な手間がかかってしまい、コストパフォーマンスが悪すぎる。

それに比べて今はどうですか? 海外用ECサイトはもちろん、決済機能、チャット機能、検索エンジン広告など、各社のサービスを連携させることで、コストパフォーマンスよくサービスを提供できる。だからこそ自分達の特徴なり、ポジショニングをしっかり固めることが大事。この分野は絶対に負けないというという分野を作るといいかと思います。それがブレない企業は成功するんじゃないでしょうか。

――今や活況なインバウンドビジネスも、実は18年前はほぼ未開拓市場。外国人をターゲットにしたビジネスは一般的ではなかった。なぜそんな時代に日本の海外情報発信ビジネスを始めたのですか。

少し私の経歴をお話させていただくと、元々、1995年から1999年に大阪にあるタイ領事館の商務部という所に勤務していました。日本で言うと、JETROのカウンターパートにあたる機関です。当時のタイは繊維関係の輸出を増やしたいということで、繊維貿易の中心でもある大阪にそういう窓口を設けていたんです。その時私がやっていた業務が、日本の企業にアンケートをとって、タイのどんな製品がほしいかを調査し、それに該当するタイ企業を分厚い冊子から探してコピーするなど、かなりアナログなビジネスマッチングでした。

1999年頃になってインターネットの世界が広がり始め、“俺のやっている仕事は将来的にネットに置き換わるはず”と思ったんです。それで、日本国内で海外向けのBtoBマッチングサイトを始めたんです。これはもう単純なサイトで「中古車」「建設機械」「民芸品」「介護用品」などとにかく依頼を受けたものは何でも掲載しました。ただ全く相手にされませんでした(笑)。

――当時の一般企業のITリテラシーというものは、ほぼゼロに近いはず。「海外にウェブサイトを使って商品を売る」なんて夢の世界に思えたお客様も多かったのでは。

当初は本当に苦労しました。築35年の光がうっすらしか差さない雑居ビルの1室で、黙々と数人で作業をしていました。そんな中で東大阪エリアの企業様ともいろいろ話ができるようになって、このエリアの製造業をまとめた外国語サイトを作り、海外企業とマッチングさせたいというお話を大阪府さんからいただきました。それで少し光が見えてきました。そのサイトをオープンさせた時(2003年)は、当時、まだ一般的でなかったSEO対策も行っていたので、世界各国の企業から引合いが届くようになりました。その時は、正直、本当に驚きました。

そんな時、日本では先駆けではあると思いますが、レコード針を製造している会社様から依頼があり、海外向けにレコード針を販売するためのECサイト制作に初めてチャレンジしました。 このECサイトは、現在でも運営していて、世界各国のアナログレコード愛好者から高い評価をいただいていますが、それは、そのメーカーが製造する「レコード針」の品質が優れていること、製品が小型(配送費が少なくて済む)、種類が膨大などの要因があったからではないでしょうか。

商品情報を多言語で読むのにQRコードが有効

――海外向けECビジネスを展開する中、日本紹介サイトjapan-guide.comとも代理店契約を。今や月間1,000万PVを超える日本を紹介する代名詞的なサイトに成長しました。japan-guide.comの魅力はなんですか?

japan-guide.comは、代表でもあるステファン・シャウエッカーが中心となり、日本各地に実際に取材に訪れ、外国人目線から“生”の記事を常にアップデートしています。地味ですが非常に大変な作業なんです。桜の時期は桜前線と同じように移動しながら情報をアップしていくこともします。今ではJAL様が運営するウェブサイトJAL Guide to Japanにもjapan-guide.comから記事を供給させていただいています。

最近では動画制作も行っています。富山県様を紹介する動画に関しても、ただ単にきれいな映像を流すだけではなく、この動画を見終わった後に実際に現地に訪問しやすいような構成にしてあります。実際観ていただけるとわかるかと思います。

―――また、関連会社PIJINが提供しているQRコードを読み取るだけで15言語で説明文を閲覧できるQR Translatorの開発にも携わった高岡社長。今やあらゆるところでQR Translatorを見ることができます。

東京都庁展望台、池袋サンシャイン水族館、奈良公園などなど、年々実績が増えています。面白いところですと、京都の貴船神社のおみくじに使われているんです。おみくじが英語とか中国語で読めますよと。ただ、おみくじの翻訳はすごく気を遣うんです。大吉と中吉と小吉の違いをどう表すか(笑)。

これからは商品にもどんどん付けていけたらと思っています。商品が輸出された時に、パッケージに書かれた情報を多言語で読めるようにするにはQRコードが一番つかえるんじゃないかと思っているんです。例えば、日本酒で有名な真澄蔵元様にもQR Translatorは使ってもらっているんです。製品ラベルに貼ってあるQRコードを読み込むと「酒の製造過程」「麹の管理方法」など、お酒へのこだわりが多言語で読めるわけです。要はブランドにかかわる付加価値な情報を読むことができ、ブランド形成に役立つんですよ。

2020年以降のキーワードは“Inclusive”

――日々、着々と「言語のバリアフリー化」が進んでいる感じですね。そんな中、関連会社PIJINの技術を使い、エクスポートジャパン様では視覚障害者向けユニバーサル対応サービスを開始したとか。

今となっては、多言語対応はどんどんと日本全国へ広まっています。18年前は観光案内版に英語の案内がないのが普通でしたから。外国人はどんどん日本を旅行しやすく、日本のことがわかるようになってきた。ある日、目の不自由な人を支援する団体からお問い合わせがあったんです。QRコードを使って、視覚障害者が音声で情報を受け取れるようにならないかと。それで、「VIPコードリーダー」というアプリを開発しました。このアプリとQR Translatorを利用すれば、パンフレットにQRコードをひとつはるだけで、外国語対応だけでなく、ユニバーサル対応にもなるわけですし。これは、世の中的には絶対に必要なものだと思いました。

――「VIPコードリーダー」とはどういうものでしょうか。

VIPは、Visually Impaired People(視覚に障害を持つ人々)の略です。このアプリは、視覚障害者がQRコードを簡単に読み取れるように設計しました。例えば、日常生活で配布する印刷物にQRコードが貼られていたとします。現在のスマートフォンには、アクセシビリティ機能が標準で装備されていて、設定を変更することで、指をのせた画面に書かれている文字を音声で読上げてくれるのです。iPhoneではこれを「ボイスオーバー」と呼びますが、この機能を使い、「VIPコードリーダー」を開いてもらいます。

次に、コードを読取るカメラが開いている間は、そのことを知らせる音がなる仕組みになっています。現在のカメラの性能では、QRコードから20~30センチメートル程度離れていてもコードを認識することが可能ですので、A4のパンフレットぐらいであれば、離れた場所から全体を写すと、そのどこかに印刷されたQRコードを簡単に読取ります。QRコードを読取った後は、「ウェブサイト開きますか?」などの手順はなく、直接、情報先へ飛び、音声読み上げをしてくれる仕組みになっています。

今後の課題としては、ユニバーサール対応のQRコードは常に冊子の決まった位置(右下)に貼り付けることと、それを示すために印刷物の右下角に切込みを入れるというルールを世の中に周知させることです。そうするとQRコードひとつで、世界中の紙に書かれた情報を音声化することが可能になるんじゃないでしょうか。

――外国語対応にとどまらず、ユニバーサル対応にまで展開しているエクスポートジャパン様。今後のビジョンは?

当社としては、2020年以降は、“Inclusive”がテーマだと考えます。これが世界のキーワードになるでしょうと。インバウンドは外国人対応じゃないですか。これまでも当社は多文化共生をテーマでやってきましたが、これからは障害者も含んだ、世の中全体での最適化を考えるようになってくる。“Inclusive”な世の中を、ビジネス的視点でどう解決していくかがテーマになっていくんじゃないでしょうか。(了)