労働者も企業も「自分都合」で働き始めればうまくいく 在留資格「特定技能」を外国人雇用のプロに聞く

 2019年(令和元年)、ついに日本政府が外国人雇用のための新たな在留資格「特定技能」を施行した。少子化で労働人口が減るのを補うべく、外国人労働者を増やすのが目的だ。各企業も、外国人労働者を獲得するために本格的に動き始めている。 外国人人材紹介サービスを約15年前から行ってきたアストミルコープの代表取締役の武田雄己彦氏に、「外国人人材の基礎知識」から「失敗しない外国人雇用法」のついて聞いた。

EC-zine(2020/01/08)より

ついに「特定技能」施行!日本もついに外国人雇用が進むか

――現在、日本で働いている外国人は何人くらいいるのでしょうか。

武田 就労できる外国人は、実習生を含めて約150万人と言われています。おおよそ、人口の1.2%程度です。先進諸国の中で外国人就労が多いのはドイツですが、実に人口の20%を超えています。ドイツは20年以上も前から、外国人就労対策を始めていました。皆さんもおわかりかと思いますが、人口減が進むと経済は発展しません。そのため、外国人就労を国策として取り組む国は多々あります。日本もその国のひとつですが、外国人労働者に関しては、まだ“元年”に近いです。

私は15年以上外国人雇用に携わってきましたが、政府が外国人労働者用の新しい在留資格「特定技能」を作ったことは、一番大きなトピックスでした。ようやく動き出したという感じではありますが。すでに周りを見回すと、多くの外国人の方が働いているのが現実ではないでしょうか。コンビニはもちろん、病院、企業でも働く外国人を見かけます。もはや、外国人と触れ合わない環境は、行政機関か金融機関くらいではないでしょうか。

株式会社アストミルコープ 代表取締役 武田雄己彦氏

――外国人を雇用したいけれど、イマイチ「ビザ」のことがわからないという方もまだまだ多くいます。ビザの種類などを簡略にご説明頂けますか?

武田 ビザについては「身分系」と「資格系」のふたつがあります。「身分系」は、日本人と同じ扱いにできるビザです。日本人と結婚した配偶者や帰化した人が対象になります。たとえば、日本人と結婚したフィリピンの方が夜の商売を行うことが可能になります。日本人と同じ仕事をすることが認められるのです。

「資格系」は、労働が可能/不可能の違いをはじめ、30種類くらいの業務に分かれています。 大学の教授や外交官も該当します。その中で一般的に就労ビザと呼ばれるものが「技術・人文知識・国際業務」で、日本人ではできない業務を行ってもらうために招聘するというのが大前提にあります。通訳や技術者などが一般的です。就労ビザがあれば宿泊施設でも働けますが、あくまでも外国人客の通訳や海外渉外業務など外国人とのやり取りが仕事になります。ルームメイクなど、日本人ができる業務を行うことは、「資格系」のビザではダメなんですね。

次に、「技能実習」という3年間のビザがあります。これは母国への技術移転を目的としており、実習生として日本で技術やノウハウ身につけます。あくまで実習ですから、細かく言うと労働者ではありません。

「留学生」ビザもあります。あくまでも勉強が目的で、その合間に働くことが学校から許可された場合、週28時間働くことができるというものです。正確には「資格外活動」と言います。基本的には勉強するために日本に来ているため、本質的に就労は不可ですが、生活のために資格外活動という形で認められているわけです。

そして、2019年にできたのが「特定技能」という新しいビザです。政府が労働者が不足していると認めた特定の業界において、労働者として勤務できるというビザです。特定技能資格は、日本人でもできる業務も行えます。先ほどお話したルームメイクも「特定技能」のビザならば行っても問題ありません。

外国人雇用成功の秘訣は「外国人扱い」し過ぎないこと

――さまざまなビザを持った外国人の方たちが交じり合って働いているということなんですね。外国人を雇用するにあたって、うまくいく/失敗するケースの特徴などありましたら教えてください。

武田 外国人雇用がうまくくいかないケースは、本人を外国人扱いし過ぎてしまうパターンが多いです。外国人労働者は、「日本人と遜色ないように働きたい」と思っています。日本人に比べて日本語能力が低い分、ビハインドを感じていて、その分をカバーするために頑張らなきゃいけないという気持ちが強い。与えられた仕事をしっかりとこなし、ステップアップしていきたい。それに対して企業側が「あなたは日本語が不得手だから、この仕事をしてください」という割り振りを行うと、「どうして?」と疎外感を感じてしまいます。

それで人間関係がぎくしゃくして辞めてしまうことが多い。これは、日本人の新入社員も同じだと思うんですよ。「まだ何もできないんだから、これをやっておけ!」と言われると、自分はずっとその仕事しか担当できないのかなと思って辞めてしまう。もちろん、修行期間みたいなものは必要かもしれませんが、それができるようになったら次のステップを示すことが重要だと思っています。

解決策としては、外国人メンタリティを持っている人を教育係につけること。英語が話せる人に教育係を頼むケースが多いと思いますが、自ら教育係を買って出た人に任せるほうがうまくいきます。外国人スタッフと一緒に働くのが楽しいと思ってくれる人こそ適任だと思います。

――そもそも武田さんが外国人雇用のビジネスを始めたきっかけは何ですか?

武田 以前は大手人材会社に勤めていましたが、もっと世界とつながるようなダイナミックな仕事がしたいと思い、2003年の34歳の時に株式会社アストミルコープを起業しました。子どももいたので、普通だったら妻に怒られてもおかしくないですが、幸い怒られませんでした(笑)。 起業後は海外で営業所を置きたい日本企業のお手伝いや、ベトナム人のITエンジニアを日本の企業に紹介するサービスを提供していました。

今、アジアの人が今日本に来てITの仕事をするのは、あまりメリットがないと思っています。日本はそこまで給与が良くないですし、アメリカや中国に行ったほうが良い仕事がいっぱいあります。多くの日本人が「アジアの人々は、みんな日本で働きたいと思っている」と勘違いしていますが、そんなことはありません。日本人のフリーエンジニアのギャランティもかなり安くなってきたため、大きな案件でなければ日本でやれば安くできるくらいなのです。

ITに加え、機械、電気、土木関係などの「ものづくり」での外国人人材の紹介を行っていますが、2012年からインバウンド需要に対応できるよう宿泊系の外国人人材紹介もやり始めました。宿泊施設では、海外在住の外国人大学生のインターンシップの受入も積極的に行っています。インターンシップで一度、日本で働くということを体験してほしいんです。日本に来る前は良いイメージを持っていたけれど、「現場は厳しいね」「母国のほうが休みが多い」「それなら母国で働いたほうがいいかもしれない」など気づくチャンスがありますから。

雇う側も同様です。「外国人のスタッフを雇って本当に大丈夫かな?」という不安も、体験期間で払しょくできます。外国人スタッフが休暇を取るから、日本人スタッフももっと休めるようにしようといた変化が起きるかもしれない。「日本の経済の活性化」「外国人に日本文化を知ってもらう」といった理想論ではなく、働く側も雇用側も“自分都合”で働き始めれば、外国人雇用が定着していくのではないかと考えています。

――外国人人材の会社も増えてきました。今後はどのような展開を考えていますか?

武田 インバウンド観光の波をなくしたくないので、外国人誘客のビジネスにかかわる資格の準備を始めています。今、考えているのは「スタディプログラム」のような、日本の文化を体験してもらうツアーです。寿司握り、書道、カルタ遊び、生け花、茶道など日本人にとっては当たり前ですが、外国人にとっては貴重な体験です。

それもできれば、若年層をターゲットにしたい。中学、高校生の時に日本文化を体験することで、日本語を学ぶモチベーションにもなりますから。外国人の方に聞くと、日本語は歌のように聴こえるらしいんですよ。日本語が話せるとクールだという感覚を持ってもらえればなと。海外の若い人にもどんどん日本語が広まり、日本に訪れる人も増えていくのではないでしょうか。