果物狩り農園もインバウンド激減、余った果物は加工販売も検討 続けていけるのは「植物が好きだから」

 インバウンドにおいて、果物狩り農園も新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けている。千葉県でイチゴ、ブルーベリー狩りで多数のインバウンドを誘客していたドラゴンファームさんも同様だ。ドラゴンファームのオーナー内田かほるさんに今の現状を聞いてみた。

EC-zine(2020/10/14)より

ブルーベリー、イチゴ狩りのインバウンドで大成功!ドラゴンファーム

ドラゴンファームのオーナー 内田かほるさん

――インバウンドのお客様が増えたのはいつ頃からですか?

内田 とくにタイからのインバウンドは、ここ数年で本当に増えました。1日に観光バスが、5、6台来ていましたね。千葉県の行政の方たちがタイに行き、一生懸命売り込んでくれたおかげだと思っています。千葉県では、落花生やお芋などいろんな農産物が取れるんです。その環境を活かした果物狩りは、インバウンド観光客の方たちにとって、魅力的な観光体験のひとつになっているようです。

実は私は、もともと園芸店を33年やっておりました。並行してブルーベリーを育てていたところ、気づいたら1,000本を超えていたんです。そこで16年前に、このブルーベリーの果物狩りをやろうということになりました。でもブルーベリーのシーズンは、6月~8月の3ヶ月だけ。それだけだと採算が合わないので、2年遅れで、1月~5月がシーズンのイチゴ狩りも始めました。

余談ですが、イチゴは親株から芽が伸びて新たに株ができます。その新たな株をイチゴ農園の人たちは「太郎」って呼ぶんです。そこからまた伸びると「次郎」、次は「三郎」。私も初めてイチゴを育てた時、農園さんたちが「太郎があんまりよくないなー」と言っているのを聞いて、「何のことだ?」って思いました(笑)。

イチゴを育てて数年経った頃、成田空港も近いことから、タイの旅行会社さんなどから問い合わせが来るようになりました。タイのテレビ局が芸能人を連れていらしたこともあったし、タイの王族の方の訪問もありました。お花見シーズン中は、日本人の観光客はほとんどイチゴ狩りには来ません。その間にタイからの観光客がたくさん来てくれるようになったのは、非常にラッキーでした。

うちは、白いイチゴから大きな赤いイチゴまで17種類あります。タイからの観光客の皆さんは、食べるよりも写真を撮ることに一所懸命な感じでしたよ。タイのイチゴは小さくて硬いらしいです。その写真をSNSにあげてくださるので、また宣伝になり、外国人のお客様が増えていった感じです。

「こんな甘くておいしいイチゴを食べたことない」と喜んでくださるので、本当にうれしいです。イチゴを購入して母国に持って帰りたいという方も多くいらっしゃいますが、その際は近所の「JAしょいか~ご」さんをご紹介するようにしています。電話で「今からイチゴを買いたい外国人がそちらに行くのでよろしくね」って。ウチも「JAしょいか~ご」さんで販売させていただいたりとお世話になっているので、持ちつ持たれつの関係です。

――外国人向けに何か対策をとられたんですか?

内田 正直なところ、これと言って大きな対策はしませんでした。英語ができるスタッフを数名用意したくらいです。旅行会社の方が通訳になってくれますし、とくに困ったことはありませんでした。唯一したことと言えば、トイレの数を増やしたことです。100人近いお客様が一気にいらっしゃると、トイレの数が足りなくなります。旅行会社さんは決まったスケジュールで動いているので、トイレ待ちで遅れが出るとたいへんですから。

最近は、タイの方たちもレンタカーでいらっしゃることが増えました。台湾の方もそうですし、電車とタクシーを乗り継いでくる外国人観光客もいます。イチゴ狩りの後は、東京や河口湖に行くみたいです。旅行会社さんを利用してお越しになるのは、カンボジアの方が多くなっていました。

どんな苦しい状況でも「植物が好き」という気持ちは変わらない

――新型コロナウイルスの影響はありましたか?

内田 もちろんありました。今も継続中です。海外からの予約だけでなく、日本人の予約もほとんどがキャンセルになりました。いつもならなくなっているはずのブルーベリーやイチゴがたくさん残ってしまったので、自分たちで摘み、近くの「JAしょいか~ご」で販売させていただきました。どこの農園さんも「JAしょいか~ご」に持ってきて販売していたので、やはり販売価格が下がってしまって……。

――それでも続けていける理由は?

内田 先ほどもお話しましたが、元々は園芸店をやっていたので、植物が好きなんでしょうね。よく大田市場にお花を仕入れに行きます。ある時、仲卸さんがマリーゴールドを大量に仕入れ、余ってしまっていました。「いくらでもいいから持って行って」と声をかけられ、ウチもそんなにマリーゴールドばかりあっても困るのですが「どうしても」と言われ、捨ててしまうならもったいないし、付き合いもあるしと購入しました。そして、近くの小学校に電話したところ、先生が喜んで引き取ってくれました。卒業式のお花などいつも注文をしていただいているから、そのお礼もかねて。こういったことがたまにあります。

子どもの頃は浦安に住んでいて、親が畑仕事をしていました。1年中、忙しかった思い出があります。当時、おじいちゃんは、海苔の養殖をやっていました。まだ埋め立てられる前で浦安にも海があったんですよ。小学校5年生位の時、体育の授業で「男子は海で泳いでこい」なんて言ってたのを思い出します。年が経つにつれ、埋め立ても進み、農地が、アパートやマンションに変わったりしていきました。家の窓から埋め立てられていく様子も見えましたよ。気づけば、浦安で「農業をしたい」と思っても畑がなくなってしまって。それで今の場所に来ました。

――それにしても「ドラゴンファーム」とは変わった名前ですよね?

内田 名前の由来についてはよく聞かれます。農園を始めた当初、ドラゴンフルーツの実だけではなく、ドラゴンフルーツがなる観葉植物を、鉢入れに入れて販売をしていたんです。当時はめずらしかったので、よく売れました。フルーツ狩りを始めるにあたり、農園名がないのは不便だと。その時にちょうど働いていた大学生のスタッフが、「ドラゴンフルーツ育てているし、ドラゴンファームでいいんじゃないですか?」と。インパクトのあるおもしろい名前なので、そのまま採用しました。だからといって、ドラゴンフルーツ狩りはやってないですけどね(笑)。

――今なお、まだインバウンドが戻ってくる兆しはありません。今後の対策としては?

内田 飛行機もあまり飛んでいませんし、今の段階では期待できません。とりあえずは、日本人のグループ観光客をターゲットに、間隔をあけながらフルーツ狩りをしてもらうことはできるかなと考えています。ブルーベリーは、いつもならなくなっている状況ですけれど、今年は余っているのでジュースやジャムに加工したりは考えています。ブルーベリーは冷凍してもおいしく食べられますので、ホームページでの販売も検討しています。