コロナ禍のインバウンド激減で越境ECが再注目!売れる自社サイトを作るコツはモールとの併用にあり

コロナ禍でインバウンド観光客が激減!売上を補填すべく、越境ECサイト制作へのニーズが殺到していると言う。株式会社ジェイグラブ 代表取締役 山田彰彦さんに、改めて越境ECの売れるノウハウを伝授してもらった。

EC-zine(2020/06/09)より

インバウンドの売上減を越境ECですぐになんとかしたいと言われても

――御社ジェイグラブは、越境ECサイトの構築実績が豊富なことで知られています。まず、コロナ禍によるECへの影響を教えてください。

山田 まず海外のEC事情についてお話しすると、Adobeのデータによれば、アメリカは25%、イギリスでは33%など、ECサイトでの利用率は上昇しています。売れ筋商品としては、商品としてはフィットネス系の商品、たとえばプロテイン、サプリメント、ランニングマシン、バーベルセットなど。子どもと遊ぶためのゲームや、デジタル系だとパソコン、タブレットなど。やはり、家で過ごすための商品が売れたわけです。

 日本においてもECでの購入は増えたというデータが出ていますよね。ECに対してポジティブな印象を持っていなかった人たちも、ECで買わざる得ない状況でしたから。今の段階ではECサイトでの売上が落ちる兆しはありません。

ジェイグラブ株式会社 代表取締役 山田彰彦さん

――ジェイグラブに寄せられる、ECサイト構築などの依頼はどのような状況でしたか?

山田 3月、4月は異常でした。1日に何本も「越境ECサイトを作りたい」というお問い合わせをいただきました。ほとんどが、インバウンド系の企業様からのお問い合わせでした。自転車レンタル、SIMカード、ホテル民泊、お土産専門店まで幅広くです。ある日、とある企業様からいただいたお電話では「売上が90%以上ダウンしていて厳しい状況です」と。思わず「90%以上ですか!?」と聞き返してしまいましたよ。

 非常に緊迫した状態で「越境EC事業をゼロから作り上げていかなければなりませんので、なんとか助けてください!今すぐ越境ECサイトが必要なんです!!」とまで言われた企業様もありました。ひと月に10社以上、同じ内容のご相談を受けていたという具合です。

 当社としては「多言語多通貨に対応したECサイトを急ぎで制作しますね」という感じで進めていきましたが、実は多くのインバウンド事業者は、通販で外国に物を売った経験がないんです。しかし、そんなことを言っている場合ではない状況のようで、スピード感を持って越境ECサイトの構築を開始しています。皆さん、会社を存続させたいですから、必死です。

 越境ECに関するウェブセミナーへのお申込みも絶えずいただいています。「越境ECの基礎を教えてほしい」「どのような方法で販売すると失敗しないか」「ECカートやモールの選択は」といったご質問をいただきます。5月末開始のIT導入補助金や持続化補助金を待って越境ECを始めるという企業さんも、当社がお手伝いするところだけでも20社はいらっしゃいます。

――実際に海外に物を売るって、たいへんですよね?

山田 そのとおりです。eBayやAmazonなどの海外ECモールを見てもわかりますが、同じようなものがたくさん売られています。ですから、ご相談をいただいた場合にも、こんなふうに厳しい現実をお伝えしてしまうことが多いんです。

 「越境ECで3ヵ月で売上を上げたいんです」
 「そんなに早く売上は立ちませんよ。初年度はほとんど赤字です。それでも越境ECに参入されますか?」
 「いやいや、今、赤字なんですぐに売上が欲しいんです」
 「いや、無理です。初年度は投資したお金を回収するので精一杯ですよ。2年目でようやく少し利益が出るようになる程度です」

 やはり長期戦で考えることが重要で、数ヵ月で売上をあげるような考えでは越境ECは成功しません。すぐ、簡単に何億、何十億円も稼げるのは非常に稀なケースです。業態転換される企業様はそんな夢を抱かれるみたいですが……。「ぜひやりましょう。越境ECサイトですぐに売上あげましょう」と言ったほうが依頼も増えますから、言えるものなら言いたいです。でも私たちは、サイトを作るだけでなく、越境ECをビジネスとしてしっかりと成功させたいですから、夢物語は言いません。数ヵ月で1億円稼げるなら、皆やってますよね?

モール10:自社0から徐々にシフトを 地道な積み重ねでモール卒業も

――それでは昨今、越境ECで結果を出しているところは何が違うのでしょうか。

山田 海外の人たちはグローバルECモール(eBay、Amazonなど)の評価をすごく気にします。「この企業はECモールでどのようなビジネスをやってきたのか、ちゃんと取引しているのかな。お金だけ払って発送しないなど何か問題はないのだろうか」といったところの信用の担保として、モールの評価を見ているんです。英語圏の著名なECコンサルタントたちは「本店のECサイトだけ運営するのではなく、支店やポップアップショップとなるECモールにも出店しないとダメだ」と皆さん言います。

 ひとつ、eBayに出品している企業様の例を紹介します。eBayの特徴として、ECモールではめずらしく、顧客のメールアドレスを取得できます。おそらく「基本的には販売者は自社サイトがあるのは当然である」という認識があるのでしょう。ECモールは売れるけれども、手数料をとられますから、自社サイトから購入していただきたい。とは言え、最初から自社サイトだけで売上をあげるのは非常に難しい。ですからその企業様は、eBayに出品し、売れたら顧客に「eBay支店だけでなく本店もありますよ」といったメールマーケティングを行っています。実はこの手法は、誰もが知るグローバルなブランドも取り組んでいますこうした地道な作業で、ECモールと併用しながら自社サイトも盛り上げていくことが、越境ECで売上を上げていくために欠かせないのです。

 当社が利用している自社サイト用の多言語多通貨対応のECサイトのオープンソースのソフトウェア「Magento (マジェント)」は、2010年から2015年まで、実はeBayが買収して育てきたといっても過言ではありません。そのため、Magentoの管理画面からeBayと自社サイトの受注情報が統合管理できるんです。Amazonも同様に連携できますが、こういうECモールとの連携機能もあって、現在Magentoは世界で約26万社のグローバル企業に利用されています。

 越境ECを始めた当初の売上比率は、モール10:自社0が現実かもしれません。先ほど述べたような地道な取り組みで、徐々に自社サイトの比率を増やしていけばよいと思います。

 もうひとつ、越境EC自社サイトで成功している事例を紹介します。侍の甲冑と刀剣を取り扱う企業様で、eBayでの販売を止め、自社サイト1本で販売しています。手作りでものすごくしっかりした甲冑で、安くても50万円、高いものは500万円くらいするものもあります。300~500万円の高額でプレミアムな甲冑を、ひとりの顧客が数体も購入する傾向にあります。

 ここまでくるのに5年かかりました。6年目でようやく自社サイトのみに絞ったのですが、eBayからお店を削除したわけではなく、出品をしていないだけです。やはり、eBayでの5年間に蓄積した高評価のレビューを残しておくことが重要ですから。購入者はeBayの過去の評価レビュー、ID名などを頼りに自社サイトを検索し、自社サイトにたどり着きます。問い合わせが入ったらすばやく返信したり、顧客宛てにリピート購入を促すメールを配信したり、あえて紙のカタログを日本から送ったりと、コツコツと積み上げてこられました。やはり、越境ECでそれなりの売上を達成するには時間がかかるんです。

――やはりコツコツ信用を積み上げることが重要なんですね。それ以外に売上をあげる手法はありますか?

山田 ひとつ言えるのは、海外へのプロモーションをしっかりと行う必要があるということです。海外プロモーション施策のうち、もっともコストパフォーマンスが良いのは、Facebook、Instagramを使ったSNSの広告ではないでしょうか。海外の人たちは、SNSを使っている時間が長いんです。日本での平均使用時間は約45分ですが、グローバルの平均は約2時間24分。東南アジアでは、3~4時間が普通です。もちろん国によって異なりますが、総じてSNSでのプロモーションは効果的だと言えます。

 当社が10年位運営しているFacebookページ「Japan Craze」は、フォロワーが約180万人います。日本人のフォロワーがいなく、96%が外国人の女性です。ですから男性向けの商品は弱いですが、女性向けのアクセサリー、食品などの商品の広告宣伝には適しています。当社が運用担当をしている企業様の商品を1日あたりひとつかふたつ、当社の外国人インフルエンサーが広告付きで紹介しています。こうしたメディアのSNSを利用するのもひとつの選択肢ですが、他人任せではなく、自社で公式SNSの運用にぜひ挑戦していただきたいところです。

お客様のニーズに応えることが独自性につながる

――今後、越境ECで売上をあげていけるのはどのような商品だとお考えですか?

山田 やはりマーケットインの商品が売れています。お客様から「この商品をこうアレンジできませんか?」といったご要望が寄せられたら、徹底的に掘り下げて、ニーズに応えていくというやりかたです。またひとつ例を紹介しましょう。

 仏具を販売する企業に、ハラール(イスラム教徒)の方から「日本の数珠は108粒だけども、イスラム教では99粒なので、99粒のタスビーフに改良して販売してくれないか」との問い合わせが来ました。当初は「異教徒が作ったもので良いのだろうか」と、冗談半分に受け止めたそうです。すると、そのハラールの方はこう言いました。「京都に行った際に、京都の職人さんが作った数珠はものすごくハイクオリティだった。こちらにある数珠は球の大きさが違ったり、すぐに割れたりして品質が悪い」と。

 それを聞いた仏具販売の企業は、99粒の数珠を制作して販売したところ、クチコミでどんどん広まり、今では大ヒット商品になっています。日本の数珠で、イスラム教徒用にアレンジしている数珠を販売しているのは、私が知る限りこの企業くらいだと思います。

――売れる商品にするには、独自性を出す必要があるんですね。

山田 ECモールをご覧いただければわかるように、同じような商品がたくさん並んでいます。何か独自性がなくては、その中から選ばれません。独自性を出すことができれば、販売単価を上げることができます。

 たとえば話題になったマスク。既製品を仕入れて販売したら30円くらいのところ、マスクに家紋を入れると300円で売れることもあります。実際にそれを行っている企業があります。実は、伊達家を除いて家紋には著作権がなくライセンスフリーなのです。そして、この家紋入りのマスクは海外の人たちに人気です。もともとのニーズは「日本のクオリティの高いマスクがほしい」だったのですが、その企業は家紋を入れて差別化を図ったのです。なぜ家紋かと言うと、漫画『NARUTO-ナルト-』の影響だそうです。皆さん、いろいろ考えて販売していらっしゃいます。

 もちろん既存の商品が売れないと言っているわけではありません。その場合は、SNSなどを活用した海外プロモーションで、さまざまな施策に挑戦されると良いと思います。

 どちらにも共通しますが、これから越境ECを始める場合には、じっくり運営することをおすすめします。越境ECで今実績が出ている企業さんは、2年、3年と地道に頑張りを重ねてきたから今があるのですから。