海外ユーザーは熱い信仰心を持ち中古品を好む傾向 仏具の越境EC成功の秘訣をTokyotradに聞く

 越境ECのプロフェッショナルであるジェイグラブの山田彰彦さんが選ぶ、 越境ECで成功している企業を紹介。今回は、海外向けオンライン仏具店「Tokyotrad」を経営する横川広幸さんの登場です。

EC-zine(2021/01/27 )より

仏具の越境EC、自社サイトには数珠のカスタマイズ注文も

——海外向けに仏具をオンライン販売されているとのこと、販売ツールと特徴をお聞かせください。

 メインはeBayで、自社サイト「Tokyotrad」も運営しています。新品・中古ともに取り扱っていて、最盛期の商品点数は500〜600点でした。今は少し減っているかもしれません。新品のほうが取り扱いは多く、中古は当初、受注が入ってから発注するくらいのつもりでいたのですが、海外のお客様の中にはアンティークのような古いものがお好きな方もいらっしゃるのでストックしています。在庫管理が難しいですね。eBayではカタログ販売のような形ですが、自社サイトではカスタマイズ注文を受けることが多いです。「数珠の一部を翡翠に変えられないか」といったように、自分だけのものを作りたいというご希望があります。

 購入のきっかけは、eBay・自社サイトともにクチコミであることが多いようです。たとえば、ニューヨークに「Tendai Buddhist Institute」という、天台宗のお坊さんを育てる学校のような場所があり、そこに通っていらっしゃる方が、うちの自社サイトで数珠を購入してくださったことがあります。後日「彼に売ったものより良い数珠を私に売ってください」というメールが来たと思ったら、同じような注文が相次ぎしまして……、きっと最初に購入された方が、学校で自慢してくださったんでしょうね。うれしいのですが、より良い数珠を求めて競争するなんて、「君たちの中にはまだ煩悩が残っている!」と言いたくなりました(笑)。

海外向けオンライン仏具店「Tokyotrad」を経営する横川広幸さん

——おもしろいエピソードですね。海外で仏教を勉強する人をターゲットにしようと決めていたのですか?

 まったく想定していませんでした! 当初は日系人や在外日本人を想定していたのですが、どうやら別の宗教から仏教に改宗し、新たに仏具が必要になった方が購入してくださっているようです。

 日本人にはあまりピンとこないかもしれませんが、実は海外では、人生の途中で改宗する人がいます。アメリカでユダヤ系のコミュニティ誌を作っている常連のお客様から、「アメリカとヨーロッパにいる仏教徒の3割は、ユダヤ教から改宗しているんですよ」と教えていただきました。改宗にはさまざまな理由がありますが、ユダヤ教から仏教への改宗は、長い歴史において、宗教戦争を起こしていないこと、一神教のユダヤ教と神様の存在を認めていない仏教がベースの部分でバッティングしていないことが大きいようです。一方でアニメの『NARUTO -ナルト-』がきっかけで、キリスト強から神道を信仰するようになったという話も聞いたことがあります。

越境ECで売れる秘訣は、最適なキーワードの翻訳を探すこと

——売れ筋商品はどのようなものですか?

 当初は、不動明王や千手観音のような、西洋の彫像にはないモチーフのものがフィギュア感覚で売れるかなと思っていました。しかし蓋を開けてみると、熱い信仰心から購入される方が多いようです。「日蓮聖人像はないか」「弘法大師像はないか」といったお問い合わせをいただきます。日本人ならある程度、彼らの業績を知っていますが、海外からこの問い合わせが来るというのは本気だなと。きちんとした商品を揃えなくてはいけないし、いい加減にやっていてはだめだと気を引き締めました。

 売れるためには、欧米圏で「仏像」がどのような単語で表現されているかを知ることが重要だと考えています。探し始めた当初は、定着しているキーワードを見つけるのに苦労しました。たとえば「四天王」を訳す際、仏像名はローマ字で通じることが多いため「SHITENNOH」とそのままローマ字にしたところ、まったく検索にヒットしませんでした。四天王は四方(東西南北)をお守りする役割があるため、「Four Guardians」を入れるべきかな等と試行錯誤したのですが、「Four heavenly kings」で通じることがわかりました。あまり良い訳だとは思わないのですが、戦前にアメリカに行ったお坊さんが広めたようです。

——そもそも仏具を海外に販売することになったきっかけは?

 2000年前後にeBayで働いていました。同僚が個人的に「甲冑」を販売し始めたところ、売れるようになり、甲冑販売のビジネスだけで手一杯になってしまったんです。それを見ていて、甲冑以外の日本の文化の商品を販売しようと思いました。オンラインサイト名「Tokyotrad(トーキョー トラッド)」は、トラディショナルの和製英語です。気づけば、起業して約10年経ちました。

 起業後しばらくすると、仏具ばかり注文が入りまして……。母方の家系に何人もお坊さんがおり、仏事に関してうるさい親族で、幼い頃からいろんな知識を叩き込まれていました。仏具や仏教に関しては、あまり調べずとも商品説明を書くことができたことが大きいと思います。値段で比較すると、中国製などにはかなわないのですが、そういったサイトを見にいくと、商品説明に「高さ何センチ・幅何センチ」のようにスペックしか書いていないことが多い。仏教のことがきちんとわかっている人は、うちのサイトの商品説明などを読んだうえで買いたいと思ってくださるから、価格では比較されない。このような背景から、仏具1本でやっていくことにしました。

 あくまで私の越境EC経験からですが、海外のお客様は、古い物をお求めになる傾向があります。私の経験では、日本人は誰が使ったかわからない、中古の数珠を嫌がる人が多い。一方で海外のお客様は、「前の持ち主の祈りを引き継ぎたいので、古い物を売ってください」とおっしゃるんです。日本の仏教は、神道と融合してきた歴史を持ちます。神道では「死」は穢れです。身内が使ったものは形見になるけれど、赤の他人の遺品は嫌がる傾向があるのではないでしょうか。

 仏教では本来、死を穢れとみることはないのですが、日本人相手に説く場合には、神道を交えて説明しないと伝わりづらかったのかもしれません。一方で、日本から海外に渡ったお坊さんは、新天地では神道の話を敢えてする必要もないだろうと思ったのではないでしょうか。だから外国人で仏教を信仰している方は、以前の数珠の持ち主の祈りを引継ぐという発想になるんじゃないかと、勝手に推測しています。

人とのつながりに感謝 海外のニーズに答える商品仕入れのキモ

——本格的な仏教徒の外国人を納得させる商品を集め続けるのはたいへんじゃないですか?

 本当にたくさんの人に助けていただいて、ここまできたと思っています。僕ひとりの力では、とてもここまでの商品量を揃えることはできませんでした。当初は、この業界は古く狭く、分野によっては排他的な部分もあるため、仏具販売を始めて数年程度の僕が入っていくのは難しいだろうと思っていました。しかし、「仏具を海外へオンライン販売するビジネスをやっているなら」と、何のつながりもなかった、僕にとても良くしてくださったのです。

 たとえば、靖国神社の骨董市の方たちは「こいつ、仏具欲しがっているから何かあったら売ってやってよ」と市場を紹介してくださいました。Twitterでたまたま知り合った京都の老舗仏壇屋の社長さんからは、創業400年のお経本ばかり印刷している出版社さんとつないでいただきました。本当に感謝しています。人とのつながりがなかったら、ここまで長く続けることはできませんでした。

——今後の展望は?

 今、仏具を仕入れるエリアが全国に十箇所程度あります。仏具の仕入れに関しては、京都と高岡を制すれば、国内仏具の9割はおさえたと言って良いのですが、おかげさまでご縁があり、とても良くしていただいています。ただ、お客様からはさまざまなご要望をいただいていますから、細かいニーズにも応えられるように仕入れエリアを増やせていけたらと思っています。