奈良を拠点に足袋アイテムを販売している株式会社TABI・SQUARE。外国人に評判の地下足袋は、 黒、紺とシンプルな色で裏地に家紋入りのものが人気だ。越境ECでは、なんと全世界送料無料で販売! 代表の米原亮さんに「足袋」だけでなく、 専門性を追求するビジネスについて聞いてみました。
Shopifyで越境EC 足袋ソックス1足でも全世界送料無料!
——足袋との出会いについて教えてください。
米原 高校3年生の時に、1年間アメリカに留学した経験があります。その時に、日本文化や自分が住んでいる町についてうまく説明できなかったのです。私は奈良県出身なのですが、日本に帰ってきた2000年頃に、たまたま奈良公園で人力車のアルバイトを見つけて、そこでアルバイトさせてもらうことになりました。私が10代の頃です。当時は奈良公園にも少なからず外国人がいて、人力車を利用はけっこうあったのです。
お客さんと英語でいろいろおしゃべりしていると、外国人の皆さんが地下足袋にすごく興味を持って、「欲しい、欲しい」と。だったらこれを商売にしたら、儲かるんじゃないかと思いました(笑)。20歳過ぎてまたアメリカ留学して、戻ってきて、2004年の時に人力車で今度は正社員で働き始めました。その時にも「地下足袋が欲しい」と言われたので、思い切って2007年に2坪くらいのお店を持ち、同時にネットでの販売を始めました。この時はまだネット販売もまだまだ発展途上で、越境ECなんて言葉も浸透していない時代です。越境ECを本格的に始めたのは2010年くらいから、今ではShopifyを使っています。
TABI・SQUAREのECのウリとしては、越境含め、全世界送料無料なところです。海外から購入する際に、商品の値段よりも送料のほうが高くなるってことありませんか? それだと最終的に購入を止めてしまう人が多いんです。それならいっそ、商品ひとつでも、いくら買っても、全世界送料無料にしちゃいました。海外の方でソックス1足だけ購入してくれる人もたくさんいます。
——どの国のお客さんが多いですか?
米原 実店舗では、圧倒的にフランス人の方が多いです。お土産の買い物文化が根付いているのと、文化的側面に興味があるからだと考えています。もちろん、フランスでも足袋は売っていると思うんですよ。でも、日本に来て「ああ、足袋シューズだ」と見つけたから、日本のお土産として買ってくださっているのではないでしょうか。かさばらないのもお土産として良いかもしれません。圧倒的に人気があるのは、裏地に家紋が入った足袋です。今、ほぼオリジナルデザインで足袋を作っているのですが、日本人は洋っぽいデザインが好まれるんですが、外国人の方は、意外と黒とか紺一色とかシンプルなものが好きです。それだと味気ないため、裏地に家紋を入れて、人気はさらに増しました。
——すみません、実は地下足袋を履いたことがないのですが、やはり機能性が高いのですか?
米原 親指が他の指と分かれているため、ぎゅっと踏ん張りがききやすいんです。私も人力車をひいていた時は、お客様ふたり乗せて坂道を下るので、その時は踏ん張りがきく地下足袋が良いんですよ。以前、プロゴルファーの宮里藍さんは、トレーニングの際に親指が分かれたシューズを履いていたらしいです。巨人の阿部慎之介元選手は、自主トレで地下足袋を履いていましたし、たしか実家が建設業か何かされていたと思います。スポーツにとって足の指の使いかたは重要ですから、感覚がつかみやすいのかもしれません。
海外向けビジネスは「郷に入っては郷に従え」
——フランスのプロダクトデザインブランド「PAPIER TIGRE」とコラボすることになったようですが、その経緯を教えてください。
米原 さきほどお話したように、フランスからの足袋のニーズはすごく多かったということもあり、2013年頃から不定期でパリやリヨンでポップアップストアを出したり、イベントに参加したりしていました。
2015年だったと思いますが、たまたまフランスの街を歩いていたら「PAPIER TIGRE」を見つけました。メインは文房具、フランス人の男性デザイナーふたりによるデザインが足袋の生地に合うなと。思い切って「一緒にやりませんか」とお声がけをさせていただいたのですが、諸々の事情があり駄目でした。その後もチャレンジしたのですが、断られてしまって……。
昨年(2020年)、とある国内のイベントに「PAPIER TIGRE」のブースがあり、声をかけさせてもらってようやくコラボすることができました。コラボ商品が完成するまで、6年かかりました(笑)。
——やはりフランスのデザイナーがデザインした足袋のほうが、フランス人にウケるものですか?
米原 実は、日本人にウケる商品を作るために「PAPIER TIGRE」さんとコラボしたんです。日本人にはモダンでもっとモードなデザインの商品を提供したいと思っていました。また、製作側の事情で、柄を連続してデザインするリピートデザインにしたかったのです。足袋は生地を裁断して作るため、断裁の場所によって1足1足違う足袋ができると困ります。どこを切っても同じような足袋ができるデザインでないと駄目なんです。厳密に、まったく同じでなくて良いんですけどね。
デザイン関連では、ワンポイントTシャツもやっていて、7人のデザイナーがさまざまなデザインをしてくれています。表と裏にワンポイントあるTシャツです。
——最後に今後の展開をお聞かせください。
米原 実はコロナが蔓延する前から、パラグアイでビジネスをする準備をしていました。なぜパラグアイかと言うと、日本人にとって一番永住権を取りやすいのがパラグアイだったんです。パラグアイに永住するわけではないのですが、ビジネスをしていく上で、日本でやっているビジネスをそのまま海外に持っていくやりかたは違うなと。この発想の原点は、高校時代にアメリカ留学した際に、そこのコミュニティに入ることの重要さを知ったからです。「郷に入っては郷に従え」とも言いますよね。
先ほど、フランスでポップアップショップを出していた話をしました。日本企業が既存のビジネスを海外でも広げていこうとする際に、国内にあるものを海外で広げていくやりかたが通例だと思いますが、それがどうもしっくりこないのです。売る物は、足袋やTシャツじゃなくても良いと思っています。それよりも私の考えだったり、TABI・SQUAREのソフト面の仕組みを持っていきたい。考えや仕組みをもとに、その国に合った商品を販売したほうが良いと考えています。
ソフト面の仕組みのひとつは、専門性をギリギリまで高めることです。たとえば足袋はそれ自体で専門性が高い商品ですが、Tシャツはどこでも売っているものです。しかしTABI・SQUAREのTシャツは、裏と表にストーリー性を持たせたワンポイントのデザインを入れ、生地は白のみという独自性にこだわることを大切にしています。このような考えを持って、パラグアイでビジネスを始めたいと思っています。コロナ禍で予定がズレてしまいましたが、着々と準備は進めています。